□我が儘honey
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今宵も艶やかな甘い色香を漂わせて、頭の冴える臣下が帰ってきた“ようだ”。
推量で云うのは無論、自身で直接は見ていないから。因みにこれは間者の報告内容そのままだ。
戦国の武将・石田三成は、最近不可思議な動きをしている彼の臣下・島左近の様子を探らせている。そうしていたら、左近が意外な場所に出入りしているのが判ってきた。
………遊廓だ。

(主に会わねば判るまいとでも思っているのか、あいつは)

三成は綺麗に整った眉をあからさまな怒りに歪め、盛大な舌打ちをした。
驚いた侍女が、自分が主の機嫌を損ねたのかと勘違いして、深々とお辞儀をして足早に部屋から立ち去っていく。
三成は何分苛々しているものだから、それを止める気にもなれずに只々たぎる怒りの遣り場を探して濃い溜息を繰り返した。

ここの所連日のように出掛けている彼が、足繁く通う先は遊廓。
戦が終わればよく遊女と戯れていたのは知っているが、こんな頻繁に通い詰めるほど熱心な遊び人では無かった筈だ。
確かに女遊びをする奴だが、仕事はきっちりとこなすし戦では功績も上げる優秀な武人だ。
何より芯の強い男である。その左近が武をそっちのけで女を取るなど、三成には考えられなかった。

「理由を言えばよいものを…俺に隠れて何をこそこそする必要があるのだ」

…何か言えない理由でもあるのか?
そう考えてはたと思考が止まる。
まさか、遊びが行き過ぎたのではないかという思いが頭の中を駆けめぐる。
嫌な汗が三成の掌を湿らせた。

「…まあ待て。とにかく落ち着くのが先だ」

2、3度深呼吸をして、額に手を当てる。
そもそも何故自分が左近の事でこんなに百面相しなくてはならないのだ。
仮にも主従の立場であるし、お互いに信頼を置いている。ならば、いつか話す時もくるのではないか。
それに、もしかしたら何か探りの為という可能性も無きにしも非ずだ。

確証も無しに苛立つのは時間の無駄にしかならない。とりあえずそういう事にして、床へと潜り込む。
冷えた布団が次第に体温であたたまる。
その暖かさに引きずられるようにして、三成は静かな夜の眠りに落ちていった。



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