□月蝕
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『月は魂』だ。

この広大な世界の何処かの場所では、月を人の魂に見立てて祈りを捧げ信仰の対象としているところがあるらしい。
大分欠けてしまっている月を天窓を通して見上げながら、陸遜はぼんやりとそんな事を思い出していた。


物思いに耽っていると、突然腕を掴まれ引き寄せられよろめいた。
眼前には熱に濡れた薄い灰色の瞳があって、此方を食い入るように見つめている。
どくんと心臓が一層強く脈打った。

「すみません、少し考え事を…」
「ほー…これからヤるって時にか?さすが、聡明な軍師さんは余裕なもんだ」

からんからんと腰に付けた鈴が鳴る。
鈴の主は、他ならぬ甘寧だ。不機嫌を隠そうともしないで皮肉にもならない子供じみた悪態をついてきた。
ひとまず言い訳をしようとしたが、それより先に荒々しい接吻を受けてしまい、話し出すタイミングをすっかり失ってしまった。

けれど、そんな強引さすら厭わない自分がいるものだから、結局何もあらがう事なく好きにさせてしまう。
簡潔にいうなれば…溺れているのだ。
目の前の男に。

「…っん、ふ」

鼻にかかった甘ったるい吐息が洩れる。
息が苦しくて少しだけ目を開けたら、またあの情欲の双眸とかち合った。

――ああ、喰い尽くされそうだ。

どちらともつかぬ程混じり合った唾液が、僅かに開いた口の端から滴り落ちていく。
深く舌を絡めて互いに貪るように求め合うと、くちゅ…という水音が聞こえて鼓膜を刺激する。陸遜の躰が羞恥に震えた。
最中、突如後ろ髪がぐいと引っ張られ陸遜が目を細める。

「甘寧、どの…っ、髪…」
「あ?ああ、すまねぇ。つい、な。」

謝りながら甘寧は不敵に笑んだ。
その笑みを見届けてから、陸遜は自ら顔を近づけて負けじと鼻頭に噛み付く。確信犯だと判っているからこその戯れ。
この甘すぎるくらいの触れ合いが、陸遜は堪らなく好きだった。

幼い頃に知り得なかった人の温もり。
それをこの行為に重ねているのだとしても、今はそれでも構わなかった。
求められていたいと心が望むのだから。

「ああっ…く、っぅ……」

下肢に性急な刺激を与えられて、反射的に背がのけ反った。絶え間ない愛撫にあがる嬌声を止める余裕も無くて、ただされるがままになる。
甘寧の指が、慣れた手つきで布越しに性器の輪郭をなぞっていく。それだけで陸遜のものは形を変え存在を主張しはじめていた。



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