□月蝕
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甘寧が触れたところ全てから、溶けるような心地良い熱が広がる。戦場で人を殺めるものと同じ指に、犯されている。
巧みに服の内側へ滑り込んできてはいるけれど、決定的な刺激をくれる部位には掠りもしない。
それでも肌を弄る手を休めはしてくれなくて。永遠にも思える時間、散々に焦らされ、遂に陸遜は悦を求めて自ら腰を揺すった。

「あ?なに物欲しそうに腰振ってんだ?」

刹那、甘寧の口端が吊り上がったのを視界の端に捉える。
獰猛さを剥き出しにした獣のごとき表情は、快楽に飢えた体躯に期待を植え付け煽るには十二分の役割を果たした。
…五感が性感帯へと変えられていく恐怖。
しかし恐怖におののく裏側で、本能に忠実であれと喚くもう一人の自分を垣間見る。

悦楽に溺れて、堕ちて、楽になれ。
あられもなく、声を上げ、善がれ。

「さて、淫乱な軍師さんは何をお望みだ?」
「……っ、やめ…」

問われながらぷっくりと膨らんだ胸の飾りを爪で引っかかれ、陸遜がかすれた声で喘いだ。
その上中途半端にはだけた燕尾服の摩擦が手伝って、衣服特有のざらついた感触が上手い具合に快感を助長する。
日頃慎ましい唇から断続的に洩れる嬌声は、徐々に、けれど確実に色を増していった。

「いっ、あぁ…!んぅ…も、だめです……っかんね、…どの…!」

なんて快楽に忠実なこの躰。
せり上がる射精欲に比例して、直に触れられてすらいないのに大量の先走りで布を濡らし、いやらしく張りつめる雄。
官能的な光景を視界におさめながら甘寧が喉を嚥下させた。

「ホント、堪んねぇな。」
「はッ…あ、んぁ…?」

呟きが聞こえたのか、喘ぐ語尾がわずかに上がる。
長い前戯の間もずっと理性の糸を離さずにいたのか、陸遜はまだ光を失っていない瞳でまっすぐに甘寧を見る。
微弱な熱に浮かされて潤んだ双眸。
薄く開いた唇から滴る透明な雫。
雄々しい獣の灼熱に、油が注がれていく。

「はは、…とんでもなくでかい収穫だぜ。」

表情にも声にも抑えきれない欲が顔を出してきて、甘寧は内心酷く困惑していた。
この少年の卑猥な姿に、声に、些細な仕草に…異常なまでに興奮している自分がまだ信じられないのだ。

女なら幾度も経験してきた。
勿論己の雄は毎回同じように高ぶったし、相手によればそれなりの快楽も得られる。そんなヘテロの交わりで十分に満足していた。

だが、陸遜にはそれと同等…いや彼女らの何倍もの色気と淫猥さがある。誰とも触れあっていないだろう無垢な躰を開拓していく事に堪らなく煽られた。
ただ、唯一誤算だったのは彼が既に誰かのお手つきだった事くらいで他になんら抵抗もなかった。
それまで男に全く興味が無かった甘寧は、だからこそ戸惑い、悩んでいた。

本当に好き者になってしまったのか。
男なら誰でもこの腕に抱けるほどに、快楽に飢えた下賤の輩に成り下がってしまったのかと。

「陸遜…、陸遜。」
「…甘寧殿?……どう、なさったんですか?」

肩を上下させて息をする可愛らしい人の名を呼べば、心配しているような声色で小さな返事がかえってきた。
きっと酷い顔をしているのだろう。

「今度は俺が考え事してたんだよ。」
「…ふふ、甘寧殿が、ですか。」

意外だと言われているのが、ありありと判る口調。眉根を寄せ露骨に嫌そうな態度を取り、つんと唇を尖らせて見せる。
陸遜がそれを見て笑う。
その瞬間だけは何もかもを忘れられた。

「けっ、好きに言ってろ。」

乱暴に照れ隠しの言葉を口早に吐き捨て、啄むだけの口づけを落とす。
滲んだ汗の所為で額に張りついた髪の毛を空いた手で梳いてやる。すると無意識か否か、もっとと強請るみたく頬をすり寄せてきた。

…頃合いか。



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