1006 BOOK

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体に伝わる振動で、意識が覚醒していく
何がどうなったのか、思い出そうとして
首の後ろが痛い


「起きたか」


声の方を見れば、あの男が立っていて
ゆっくり近づいてくる男に、恐怖しか感じない
殺される、病気は治った!そう言いたいのに
ガチガチと震えるだけで、声が出ない

ゆっくり伸ばされる手に、涙がこぼれ
ぎゅうと目をつぶる


「安心しろ、何もしない」


ゆっくり、頭を数回なでられて
おそるおそる見上げる
光に当たると、藍色に光る黒髪に、切れ長の目


「俺の名前はロー。トラファルガー・ロー」


私より先に町を出た兄と、同じ名前
同姓同名ってだけなのに、ドクリと鳴く心臓
嘘だ、だって、あの病気から逃れる方法なんて


「久しぶりだな。あれから15年もたつ」


ベットに座りながら、優しい声でそう囁く


『う…そ・・・・・・・・・』

「嘘じゃねぇ。親父もお袋もラミも死んだが、お前は生きてたんだな」


父様も母様も、目の前で射殺された
ラミは病気で死んだ
それから兄は町を出て、私も町を出て
兄と名前が一緒で、妹の名前も知ってて
だけど、信じられない


「俺がお前の兄だって、まだ信じらんねぇか?」


否定もできなければ、肯定もできない
話自体が突然すぎて、何が何やら、よく分からなくなってきた
頭をなでる手が、優しく引かれ
男の方へ倒れこむ
トントンと指先で叩かれたのは、背中側の左肩で
そこには


「あるだろ、少しゆがんだハートのあざ」


俺にもある
そういう男は、右の腰あたりをトントン叩く
そうだ、確かに兄にもゆがんだハートのあざがある
ラミにはなくて、二人だけずるいと、何度か泣かれたのを
うっすら覚えてる


「まだ信じてねぇって顔だな。DNA鑑定でもしてやりてぇところだが、その機材は今はない。他に証明できるもんもねぇ。全部あの町に捨ててきたからな」


ぎゅうっと、抱きしめられて
私はどうしたらいいか、分からなくて
そのまま、されるがまま


『・・・・・・家に帰して………』


もし目の前の男が兄だとしても
私は、私の生活があるし、家だって、仕事だってある
いまさら、家族がいたと分かったって
何も変わることは、ない


「それは出来ねぇ。もうあの島には戻さねぇ」

『え?』

「帰りたいって言っても、もうすでに船は出てるしな」


帰す気も、逃がす気もねぇ
ようやく見つけた、唯一の家族
あの時守れなかった、妹だ

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