1006 BOOK

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今まで住んでた町を、強制的に出されて1週間
帰して、戻して
何度言ったか分からない台詞に、良い返事をもらった試しはない
今この船がどこに向かっているのかすら知らないけれど


「あと1時間でつく」


ソファーに座って、医学書を読む男は
そう一言だけ告げ
意識を本へ戻した
あぁ、そうだ、room
能力を見たのは、出会って最初の1日だけだったのに
なぜ、このタイミングで能力を発動してるのか
固定範囲に私が入ったところで、ソファーから立ち上がり
横に立てかけた刀を手に、鞘を抜いた


『え…?』


刀が届かない場所で振られ、痛みもなにもないのに
カクンと、ひざの力が抜けた
膝の力が抜けた?
いや、そんな感じじゃない
崩れ落ちる体は、男に片腕で支えられ、床に倒れこむことはなかったけど


『っ!!!』


見なければよかった
違和感のある足へ、視線を投げれば
太ももより下が、ない

その光景に、一瞬でパニックになり
両方の目から、涙が流れる


「心配するな、後でちゃんと戻してやる。痛くはないだろ?」

『ひっ……く、……』


トラウマなりそうな光景なのに
男は微笑みながら、私を抱き上げたままソファーに座り直し
医学書に目を落とす

涙はまだ流れたままだけど、足がない恐怖から
男の着ていたパーカーをぎゅうと握る


「いつまで泣いてる。ほら、泣きやめ」


優しく涙をふかれ、ぎゅうと抱きしめられる
背中をトントン叩く手も、すごく優しい


「お前は相変わらず泣き虫だな」


おでこに、男の唇が触れて
また背中をトントン叩かれる

妹のラミはどちらかというと、好奇心旺盛で活発
だけど私は、怖がりで泣き虫
よく兄に泣きついては、だっこをねだった
そして最後には、おでこにキスをもらうのが
私をなだめる兄のパターンだ


「このまま少し寝ろ、夜あんま寝れてねぇだろ」


ついたら起こしてやるから
背中をたたかれたまま、男はソファーの背もたれに倒れ
私の寝やすい体制に変えてくれる
こんな状況で、寝れるわけないと思ってたけど
自然と瞼は重くなって
意識がどんどん沈んでいく


『ローにぃさま……』


兄がしてくれた、懐かしい行動を思い出したせいか
最後の最後に、そう声が出れば
上の方から、優しく名前を呼ばれるのが聞こえた


「おやすみ、ナギ」


うん、おやすみなさい
兄と一緒の名前を持つ人









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