1006 BOOK

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逃げ出す当日、まだ七武海の人は戻ってきてない
家には、お手つだいさんと、あの男のみ
リビングのソファーを陣取って、ずっと難しい本を読んでる
私は私で、部屋でぼーっとしたり、庭を散歩したりしてる

その辺の鳥に、意識を飛ばして
周りの状況を把握
町への道は1つのみで、そこから船の出る港までの道も頭に入れておく

そして、夜
ご飯を軽く食べて、庭に出れば
男は、風邪を引くとパーカーを持ってきてくれた

心の中でごめん!と思いながら
Room と呟けば、固定範囲が出て
隠し持ってたナイフで、男の足を切断
そのままシャンブルズで、塀の外に出れば
あとはまっすぐ走るだけ
そんなに長く能力を奪えないけど、少しでも長く奪ってられるように
ぎゅうっと、胸あたりの服を握った

走り続けて、港まで行き
船に乗る梯子を目指す


『レイン・ブーケというものです』

「話は聞いてます、どうぞ貴方で最後ですので、そのまま船は出ますよ」


それはありがたい、と足早に船に乗りこみ
指定された場所へ腰を落ち着かせる
これで本当に逃げられたのだろうか

探す気になれば、すぐにでも見つかってしまうかもしれない
その不安から、腕はカタカタと小さく震えている
私が、あの人たちに対する 拒絶 を理解して、納得してくれれば
きっと、追いかけはしないと思うけれど
奪った能力は、船が見えてきたあたりで、男のもとへ戻ってるから油断はできない

ゆっくりと動き出した船に
少しだけ安心して、詰めていた息を大きく吐いた
今着ている服以外、何も持たずに来た
ズボンのポケットに、お金を少しだけ持ってきたけれど

町に着いたら、住み込みの仕事を探さないと

船が港を出て、少しして
どの程度離れたか甲板に出てみる
夜だからか、乗客は数人しかいないと思ったら思いのほか人がいて
人気の少ない船尾に移動した
明りの灯る島が随分い小さく見える

風になびく髪を、片手で抑える
兄と私は、父親と同じ髪色で
ラミだけ、母親と一緒
私は母様と同じ髪色のラミが羨ましくて
ラミは兄と一緒の髪色が羨ましくて
二人で、交換こ出来ればいいねって話もしたっけ

家族全員に優しかった母様と父様
兄も勉強の合間に、いっぱい遊んでくれた

着ていたパーカーを脱いで、風に遊ばれるまま手を離せば
ふわりと浮かんで、音もなく海へ沈んでいった


『(あの頃には戻れないのに)』


酷い光景が瞼の裏に浮かび上がり
ぎゅっと唇をかみしめる
たくさん優しくしてもらった
愛してもらった、幸せな記憶だってたくさんある
母様の作るシフォンケーキの味だって、忘れた事なんてない

だけど、思い出す映像は
炎に焼かれた病院と、射殺された両親
死体に紛れた兄
容赦のない、政府の仕打ち


『(きっともう、本当の名前を呼ばれることもないか)』


これからずっと、偽名で過ごしていく
もう慣れた、15年間、そうやって生きてきたから


『さよなら、ナギ』


暗い海に、涙が1粒だけ
沈んでいった


「お嬢さんこんな人気のないところにいちゃあ、悪いおじさんに攫われちまうぜ?」

『な、んで……』

「話は後だ、少し眠ってな」

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