1006 BOOK

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昼過ぎ、ローは相変わらず医学書を読みふけってるし
ドフィとコラさんはお出かけ
暇を持て余してる私は、メイドさんたちに頼んで
キッチンを貸してもらう

何種類もある紅茶の中から、記憶の中のにおいに一番近いものを選んで
小麦粉、バター、砂糖なんかを並べる

母様と一緒に作ったのは、このケーキぐらいで
あの味に近づけばいいな
フルーツも入ってなくて、生クリームも添えてない
シンプルな紅茶のシフォンケーキ
それと一緒に、甘いホットミルクを飲むのが、定番だった

自分でも何回か作っては、もっと香りが違う
もっと、ふっくらしてた
今までいろいろと試行錯誤してきたから
失敗することなんて、ほとんどないと思うけど


『あとは、焼き上げて、粗熱を取る』


大きなボウルをラミと二人で、支えたり、交代しながら生地をまぜたり
今は、母様と同じように、一人でも作れるようになった
雪が深くなって、外に遊びに行けない時は
結構な確率で、お菓子作りしたな
ラミは途中で飽きちゃって、分量とかも覚えてはいなかったけど


オーブンが焼き上がりを告げて
ミトンをつけて、中身を出す
ひっくり返して、そのまま粗熱がなくなるまで放置


『ひとつまみだけ』


あったかいままのシフォンケーキも、私は大好きだ


「怒られても知らないぞ」

『っ!ロー』


口にケーキをいれた瞬間、声をかけられて
驚いて、入り口を見れば、クスクス笑われた
母様は、こうやって出来上がってすぐのケーキをつまみ食いすると
笑いながら怒る
だけど、私は母様の目を盗んで、必ず一口、温かいケーキをつまみ食いする
そのたび、ローがさっきみたいに
声をかける


『一緒に食べてくれる?母様が作ったやつより、美味しくはないかもしれないけど』

「あぁ。ほらミルクパンよこせ、牛乳あっためるだろ?」

『うん、ローはコーヒーにする?』

「俺もホットミルクでいい」


準備が出来て、お盆に切り分けたケーキとホットミルクを乗せる
お盆を持とうとして、私より先にローがお盆を持ってくれたから
それならと、私は扉を開けた


「懐かしいにおいだな」

『ローでも食べれるように、甘さ控えめだったんだよ』

「知ってる」


だから飲み物は、甘いホットミルクだろ?
母様、甘さ控えめなのはローに内緒ねって、毎回言ってたけど
ローに気づかれてたみたい
ふふっと笑みがこぼれた


『どう?おいしい?』

「あぁ、うまい。お袋のよりうまい」

『母様の方がおいしかったよ』


ぽんぽん頭をなでられながら、ケーキにフォークを刺す
私やラミが切り分けると、均等に切れなくて
一番大きいのは、誰が食べるのかで喧嘩した

母様に叱られて、泣いてる私とラミをローが宥めてくれた
懐かしいな

窓の外の景色は、全然違うし
家族は減ったし、私もローも大人になったけど

心がぽかぽかするのは、変わらないみたい
隣に座るローを見上げれば
ローも笑ってた





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