BOOK サッチあの子シリーズ

□あの子が寂しくないように
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気がついたら、自分の部屋のベットにいた
かすかな記憶は
病院のベットで点滴を打ってもらった時点からなくて
どうやって帰って来たのか
誰が運んでくれたのか、わからない

汗をかいて、服が肌に張り付いて気持ち悪いのを除けば
朝の時点よりだいぶ体は楽になった

薬が効いてるのかな?

暗闇の中、ぼーっと天井をみつめる
一人なのを自覚したら
気持ちがどんどん沈んで
そのまま目から涙があふれた


『さ、っち……』


寂しくて、名前を呟く
本当は抱きしめてほしいし
どうした?って撫でてほしいし
一人でいたくないけど

今サッチは仕事が忙しくて
私がその邪魔をしちゃいけなくて
でも、寂しくて


「凪」


幻聴かと思った
熱に浮かされて、幻聴まで聞こえて
でも幻聴でも、幻覚でも何でもいい


『さっち、ぎゅってして…』


瞬間包まれる温もりに
幻じゃないことを理解した体は
素直に、その温もりに腕をのばした


『サッチ』

「うん?」

『大好き…』

「俺も、大好き」


しばらく抱き合って、ようやく気持ちも落ち着いて
そっとその腕を離せば
サッチの手が頬をなでた


『ど、して・・・』

「ローって奴に呼ばれた。面倒ちゃんとみろって怒られたよ」

『…ごめん』

「俺の仕事を気遣って、連絡しなかったんだろ?悪かったな寂しい思いをさせて」


またぎゅっと抱きしめられれば
さっきの寂しい気持ちが嘘みたいに吹き飛んでいった

飯食えるか?体だるくないか?着替えするか?

もはや自分が看護ではなく、介護を受けている気がするほど
サッチは過保護だ
まぁ、今に始まったことじゃないけどね


『全部いらないから、側にいて』


そう呟けば、サッチが困った顔して布団に一緒に入ってくれた
その温もりに、再び睡魔が襲う
でも、まだ少しだけ、この温もりを味わっていたいの
そうわがままを思うけど
容赦なく、意識は眠りの底に沈んでいった






バタバタと忙しく仕事していて
凪の所にすら顔をだす暇もなくて
気がつけば、2〜3日凪に会ってねぇ

仕事も一段落ついて、久しぶりに総務課を除けば
いつものデスクに、凪の姿がなくて
PCの電源も入ってない
カバンも、ケータイもない

妙な不安から、凪のケータイに電話をすれば
留守電になる
それが、俺の不安を更に大きくする

2分ほどして、ケータイが鳴ったと思ったら
凪からで、慌てて電話に出れば
男の声


「お前誰だ」

「そう威嚇するな。別にあいつに何もしてねぇ」

「凪は」


自然と低い声が響き、目つきも鋭くなってる気がする
しょうがねぇ、凪の電話に、男が出てんだ
普通にしてろってのが、無理難題だろ


「あいつ体調不良で、点滴打ってる。もう20分もすれば終わるから、こいつ回収に来い」

「…どこの病院だ?」

「ハート総合病院」

「すぐ行く」


そうして電話を切ろうとして
耳から離した瞬間

― バカの面倒ぐらい、ちゃんと見ろ ―

そう聞こえた
急いでハート総合病院に向かって
投げられるように渡された凪
随分体温が高くて、その温度に正直焦る


「俺シャチ、ここの内科医。んで凪とは腐れ縁。こいつの状況変わったら連絡ちょーだい」


と白衣の男に薬を手渡されて
そのまま凪の家に帰る
俺の家じゃ、着替えも不十分だし
何より、体調が悪い時は慣れた部屋のほうがいいだろうしな

んで、苦しそうに寝ている凪をみて
これから先、忙しくて会えなくなった時
今回みたいに具合を悪くしたら
寂しい気持ちを抱えたまま
一人ぼっち、なのか

それはダメ
ぜってーダメ

どうしようか、どうするべきか
考えるまでもなく、俺の中では答えはすでに出ている


「(起きて、具合が良くなったら、話してみるか)」


一人で泣かないように
一人で寂しくないように

俺が凪を一人にしないように
俺が一番そばにいられるように



「(一緒に住もうぜ?凪)」



眠る手をぎゅっと、握り締めた




End




あれ?
もっと看病しながら、あれこれする話を書こうとしてたんだけど
どうしてこうなった
一緒に住むの?え?住んじゃうの?
マジか……

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