BOOK 花ことばシリーズ

□4月12日
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『今日は部活?』

「もちろん」

『えー休みにしちゃおうよ』


僕の部屋
僕のベット、そこに寝転ぶ薄着の女

時間ができたら、彼女を呼び出し事に及ぶ。そんな関係


「そんな事言うなら、もう呼ばないよ」

『えー、つれなぁーい』


本気で言っているのに、凪は本気ととらない
いつもは、素直に まったねーん とか言って帰るのに
今日はどうしたって言うんだ

上下の下着に、キャミソールだけの男を誘う姿を前に
僕はしっかりと制服を着込む
睨みつけるように見下ろせば
苦笑しながら『わかったわよぅ』なんて口を尖らす彼女

ゆっくりと、脱いだ服を着ていく
丈の短いスカート、胸元が大きく開いた服
タイツ……は、昨日僕が破ってしまったから
帰りは素足だな


『今日はもう少し一緒にいたかったんだけどね』

「ワガママをいう子は嫌いだよ」

『相変わらずねー』


そう言いながらも、唇を寄せてくる凪に拒絶を見せれば
こんどは明らかに、悲しそうな、泣きそうな顔をした


『じゃ、帰るわー。またねー』


ぱっと、いつもの笑顔に切り替わる凪に違和感を覚え
ひらひら振る腕をつかんだ
このまま帰した方が確実に面倒な事を回避できるのに


「言え、何があった」

『何でもないわ』

「僕は2度同じ事はいわない」

『…っ、お世話になった祖母が死んだだけ』


それだけよ
掴んだ手を、そっと振り払って彼女は転がるカバンを手にとった
彼女の祖母は、親から見放された凪を引き取り
ここまで育てた方
祖母が死んだだけ、ならなぜここにいる?
普通なら、お通夜の準備や
式場の準備で慌ただしくなる時だというのに


「僕に隠し事は無意味だ」

『っ、ホント、あなたって人は…』


返事をせずに、彼女の言葉の続きを待てば


『葬式に来るなって言われたのよ、一族の恥を見せる気はないってね』


その言葉に、僕はケータイで電話をかける


「赤司です。申し訳ありませんが、今日の練習は休ませていただきます。メニューは各自に昨日配布してるので、その通りで、はい、はい、よろしくお願いします」


ぴっと電話をきって
着込んだ制服を乱していく


『いいの?練習……』

「サボって欲しいと誘ったのは、だれだったかな」

『ありがと、征十郎……』


誘惑に乗ったふりをして
彼女の痛みを和らげようとすれば

泣きそうな顔の
乙女のはにかみ を見つけた



あんず  『誘惑 乙女のはにかみ』

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