BOOK 花ことばシリーズ

□4月13日
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背の大きな紫の彼は、まさに今重大な危機に直面しています
それは、何だって言うと


『虫歯、早くよくなるといいね』

「凪ちん、うるさいしー」


そうなのです
紫原くん、もといむっ君は、現在虫歯の治療中
そして、毎食後の念入りな歯磨きの他に
治るまでお菓子禁止令が赤司様によってくだされているのです

小さく見える机に突っ伏して
だらんとしてるむっ君の前の席に座り
むっ君の癖っ毛を撫でる

むっとして見上げてくるけれど
やめろし って言うだけで、手を振り払わないところを見れば
嫌ではないのかな?


『私もむっ君と一緒に、お菓子断ちしてるんだよ?』

「別に頼んでねーし」

『そうだね、直ったら一緒にお菓子食べようね』


目線を合わせるように、机に突っ伏せば
お互いの顔しか視界に入らなくて
何だか笑える
この距離で、笑えるなんてきっとむっ君だけ


「凪ちん、甘い匂いがする」

『ん?別にお菓子は食べてないし、アメちゃんも舐めてないよ?』

「でも、甘いにおいがするー」


動かずに、すんすん鼻を鳴らし
やっぱり甘い
と呟くむっ君に、犬みたいだね と言えば
むっ君が、少しだけ動いた

普段と同じ距離なら問題はないけれど
狭い机の上
しかも、大きなむっ君が少し動いただけで
私との距離は、鼻先が当たってしまうほどの距離で
心臓がドキドキするかと思ったら
そうでもなかった


「凪ちん」

『ん?』


もうピントすら合わないけど
そのぼやける視界の中でも、その紫だけは鮮やかで
名前を呼ばれて、くすぐったくなる


「凪ちん」

『なぁに?』


もう1度名前を呼ばれて、そのくすぐったさは大きく膨らんだ

ちゅ

と唇にむっ君のそれが触れた


「甘いから食べたら美味しいかと思って」

『美味しくないよ…』


普通だった心臓は、ドンドン速度をまして
今では本当にうるさいぐらい
だけれど、この距離間を手放す方が嫌で
自分の心臓を黙らせる


『何でキスしたの?』

「別に、謝ったりしないよ?悪いと思ってないし」


ちゅ また唇が触れた

謝ったりしないよ
だって
甘い香りで誘ったのは
凪ちんだしね







いちご  『誘惑 甘い香り』

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