BOOK 花ことばシリーズ

□4月20日
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めっずらしい事もあったもんだ
完全に動きを止めてしまった私の足は
進むことも、戻ることもしない

書類を書いている姿勢で寝ている
地獄の裏ボス 鬼灯
普段キリキリと機械のように仕事をこなし
容赦なく金棒を振り回すその様は
言葉の通り、鬼の中の鬼

その鬼灯様が寝ていらっしゃいますよ!
どいうする!?
この書類、至急でって言ったのも鬼灯様じゃん!


『(ここは、そっと机に書類を置いて、逃げるべし!)』


そう思って石の如く固まった足を無理やり動かした
そっと足音を立てないように
鬼灯様の机に寄る

閉じられたまぶたに、長いまつ毛
ほのかに開いてる口元

知っていますか?
私は、貴方が好きです
もう何百年も前から、貴方が好きです


『はぁ・・・』


一途に誰かを思えるほど強くもないし
優柔不断で、流されやすい
今日の夜だって、白澤さんと飲みにいく約束があるくらいだ

でも今日は少しだけいい日だなぁ
無防備な鬼灯様なんてレアすぎるでしょ
こっそり写メを1枚撮った
この前、雨の日に水溜りに落とし
それ以降、着信音や、アラームの類が鳴らなくなってしまって
困ってケータイを買い換えようと考えてたけど
これはこれで、役に立つ
写真を撮る時のシャッター音すら
このケータイは鳴らないのだ


『(白澤さんに、みつからないようにしないと)』


ケータイを懐にしまい
顔にかかる髪を、そっとどかす
切れ長の瞳も、通った鼻も、色白の肌も
全部全部好きです
アイドルの憧れなんかに近いものがあるかもしれないけど
私は、このきゃーきゃーいってる自分が
嫌いじゃない


『お疲れ様です』


そっと
寝ている鬼灯様に声をかけ
空調が効いている執務室で、風邪をひくわけではないけど
念のため、私が首に巻いていたストールを肩に掛けた
名前も書いてるわけじゃないから
もしかしたら、このストールはもう手元に戻ってこないかもしれない

お気に入りってほどでもないし
鬼灯様の役にたつなら、ストールの1つや2つは惜しくもない

入ってきた時には動かなかった足が
出て行く時には、足取りが軽い
なんて気分屋な足だ、まったく
静かに音を立てずに扉を閉め
時計を見れば、そろそろ仕事が終わる時間

今日は白澤さんのおごりらしいから
美味しいお酒をいっぱい飲んで
美味しいご飯をいっぱい食べよう
そして、少しだけ
鬼灯様の話を聞いてもらおう

きっと嫌な顔をしても
ちゃんと最後まで聞いてくれる


『やっぱり、今日はいい日だなぁ』


地獄の鬼も
眠ってしまえば
その周りの空気は
温和 そのもの

もうしばらくは、ゆっくりとお眠りください


『(写メ、待受じゃまずいよね…)』






かいどう  『温和、美人の眠り』

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