BOOK 俺様ッチ 他短編

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「よい」

「よし行くか」


電話をきった後、外で煙草を吸っていれば
眼の前に車が止まり、運転席からマルコが顔をのぞかせる
何も言わぬまま煙草を放り投げ
助手席に座れば、車は目的の場所へ向かうために走りだす


「ほらよい」


バサリと書類が膝に広がり、それに簡単に目を通す
管理会社の情報、白ひげとの契約書


「親父が、それ切ってもいいってよい」

「結構仕事任せてたろ」

「その分見返りを強請るのがうまいらしいよい」

「あー、そう言うこと」


あくまでその管理会社は白ひげの傘下だが
独立だの、報酬の金額だの、娘との政略結婚だの
いろいろと無茶を言ってるらしい
んな会社早く切っちまえ

豪邸ともいえる屋敷の客専用の駐車場に車を止め
インターホーンを鳴らす
扉を開けた嫁に、旦那はいるかと聞けば
その後ろから慌てて走ってきた


「本日はどのような件で?」


リビングのソファーに通され、社長の向かい側に座る
無言で書類を渡し、眼を通し終えるのを待てば
慌てて、理由を尋ねてきた


「白ひげから、独立したいんだろ。ちょうどいいだろう」

「いや、親父さんにちゃんと話をさせてくれ!」

「それはできねぇよい」


立ち上がって、横暴だ!これが白ひげのやる事か!
おっさんの怒鳴る声なんか聞きたくもないが
一通り、文句を聞いた


「異論は聞かねぇよい。親父の決定だ」

「何が……何が理由なんだ」

「リリアス、今いんのか?」

「は?」


大きな契約が解消されるという時に
なぜ、娘の事なんか
そう怪訝そうな表情をみせたあと、素直に娘を呼ぶ
2階の部屋にいたらしいリリアスは
部屋に入って、俺を見たとたん
猫なで声で走り寄ってくる


「サッチ、どうしたの。私に会いに来てくれたの?」


そう抱きついてきた
その行動に顔を青くさせ、やめなさいと声をかけるが
甘やかして、わがままに育った娘はきかねぇだろ


「今日、俺の家に来たな?」

「……しらなーい」


何だ、私に会いに来たんじゃないのか
そう呟いて、そんな話なら部屋に戻るわー
と背中を向けた


「今日、リリアスが俺の家に無断で侵入した。んで俺の同居人をどこかにやっちまった」


それが理由だ
そう言えば、珍しく社長は娘の腕を引き
頭を無理やり下げさせ、謝りなさい
と声を荒げる


「あんなガキ一人いなくてもいーじゃないの!!」


反省の色も見せず、声を上げるリリアスにゆっくりと手を伸ばす


「落ち着けよい」

「あぁ、十分落ち着いてるさ」


そう言って、髪の毛をつかみ
無理やりこっちを向かせれば
ことの重大さにようやく気がついたのか、一瞬にして瞳が怯えた


「どこにやった」

「し、知らないわよ」


ここで素直に言えば、この手を放してすぐ様この家を出たんだが
そーか、知らねぇと言うか


「マルコ」


そう声をかければ、マルコはケータイで連絡を取り
一言だけ呟いた


「潰せよい」


その一言に、社長は土下座で謝り
リリアスは何が何だか分からない表情でこちらを見ている
ポケットのケータイが着信を知らせて
相手を確認して電話に出れば


「山際の自然公園で、凪らしい奴がいるって情報がきた」

「悪かったなエース。あとでメシでも奢るわ」

「ししっ!肉な肉!」


電話を切って、マルコに視線を投げれば
土下座をする社長に目もくれず
よいと頷いた

車を走らせるが、雨で視界が悪い
周りの車も、速度がおせぇ上に
信号にいつも以上に捕まっている気がする


「イライラするんじゃねぇよい」

「してねぇ」


そう言って、もう何本目かのタバコを咥えた
少しだけ開けた窓に煙を吐き
入り込む冷たい空気に、眉をしかめる

1時間
あの社長の家を出て、ようやくその目撃情報のある公園につくが
遊具があるわけもなく、ただ散歩道にベンチだけの公園に
雨に濡れるのも気にせず、ゆっくりと足を進める
この雨の中、雨宿りもしてねぇなら凪は本物の馬鹿だ
そう思って一定間隔に設置されたベンチに人影がないか見ていけば
数個先のベンチに、誰かが座っていた
傘をさしている様子もなく
座る というよりも
ベンチの上で膝を抱え、うずくまっているようにしか見えない
はっきりと認識できる距離になれば
そいつは見間違うはずのない


「凪」

『……っち』

「迎え、来てやったぞ」


そのへんの可愛い女子や、綺麗なお姉さんにはもっと気の利いた言葉を吐くが
昔から、それこそ高校ん時から
こいつにだけは、んな言葉言ったことねぇな

ゆるゆると遅い動作で顔を上げる凪
肩につくかつかないかぐらいの髪の毛が、ぺたりと顔に張り付いている


『さっち…』

「お前、まさかこの雨の中寝てたのか?どんだけ神経図太いんだよ」

『寝てないよ』


手を伸ばし、腕を掴んで引き寄せる
生きてねぇって感じるほど、冷たい体に舌打ちをこぼす
ジャケットも脱いできたから、かけてやるものもねぇが
とりあえず、車まで戻るか


「帰るぞ」

『うん』


そう歩き出した俺に合わせるように足を踏み出す凪だけど
ぐらりと視界の端で傾く体に、反射的に手をのばす
どうにか、地面にぶつかる前に受け止めたけど


『…ごめ、さ』


力が入らないのか、一向に立とうとしない
これ以上雨に濡れるのも、体によくねぇだろ
そう思って、膝裏と背中に手を回し、抱き上げる




こいつ、こんなに軽かったか




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