落乱
□pool with?
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そろそろ水がたまったかな、とプールサイドにでると、プールの淵に座っているちふゆが目に入った。体操着で、珍しく髪を高く纏めていて、顔さえ見えなければ体育会系にも見えなくないんだけれどね。貧血で顔真っ白。文化系どころか入院しろって感じ。
ちふゆはまだボクに気付いていないみたいだ。後ろから押したらプールに落ちるかな。息を潜めてちふゆに近付く。あと、1歩で腕が届く、と思ったらパサリ、と音をたててなにかがボクの顔面を打ち付けた。
「うわっ、兵ちゃん!!」
「いった…。急に振り向くなよ馬鹿!!」
「だ、だって人の気配がしたんだもん」
思わぬ反撃をくらい、一気に萎えてしまった。ちふゆのとなりにこしかけてプールの中身をのぞくとまだ、3分の2も溜まっていなかった。やっぱりデカイと溜まるのは遅いな。
「学園長が溜まったら遊んでいいって。3組みんなで遊ぼうね。」
「遊んでいいの、」
それは初耳だ。ちふゆも今聞いたんだろうか。
団蔵と虎若は何故か水鉄砲を持ってきていたから前々から知ってたのか、それとも許可されなくとも遊ぶつもりだったのか。……多分、後者だな。
ちふゆは首筋を伝う汗をハンドタオルでふきながら口を開いた。
「みんなは?」
「図書室で涼んでるよ。」
実をいうと、ボクは図書室にいるみんなとジャンケンで負けてちふゆとプールの水の見張りを交代しにきた。あいつらの『おつかれw』とか『ざまぁw』みたいな顔は忘れない。あとでなにかしらしてハメてやる。
「え、私も行きたい。プールの見張り代わってくれる?」
「ヤダよ。ボクちふゆで遊びにきたんだもん」
一人でただ、プールの水を見張るなんて馬鹿馬鹿しくて、代わってなんかやらなかった。別にちふゆは交代のこと知らないしいいだろ。それに誰かが来なくてもきっと、コイツは最後まで見張りするんだろ。
「ですよねー、知ってたー」
ちふゆはため息をつきながら項垂れて左手のペットボトルをパキリと鳴らした。
「なにそれ。」
「ピンクレモネードだよ。さっきね、伝七が来てね、近くに来たし、たまたま持ってたかららやる!ってくれたの。」
私の貴重な水分だよぉ、とかなんとか言ってるけどそんなの知らん。なんだよ、それ。
色素の薄い唇がプラスチックの飲み口にあてがわれて液体が流れた。喉仏なんてない細い喉がごくごくと動いている。絶対コイツ、味わってない。喉を潤してるだけだ。
ていうか、伝七がプールの近くにくる用事があるわけ無い。ちふゆに会いに来たなアイツ。ちふゆってば、ほんとに鈍感。相変わらず馬鹿。
「ちょっと、それ貸して。」
「んー?兵ちゃんも飲む?」
伝七から、簡単にそれを受け取って、しかも貴重な、とか言って。コイツの中の伝七の好感度はどうせ右肩上がりで。ムカつく。
ちふゆからペットボトルを受け取って飲み口を睨んだ。
右手で握りしめて、それをちふゆの頭の上で逆さまにした。
こぷり、と液体が重力に引き付けられる音がした。次の瞬間、中身が音をたてて流れ出す。
「痛い痛い!!目に入った!!ちょ、兵ちゃ、っ」
「ムカつく。あー、すっごいムカつく。」
プールとは対照的に3分の2以上入っていたピンクレモネードはすべてちふゆの髪や顔を伝い、体操着に吸収されていった。中身が空になって軽くなったペットボトルをプールサイドに投げた。
「兵ちゃんひどい!!着替え持ってきて無いのに!!」
ちふゆは目を必死に擦りながら大声をあげた。いつもより大きいってだけで、大してデカイ訳じゃないけど。指の間から見えた目は真っ赤だった。
「はあ?お前、体操着で電車乗ってきたの?」
「上はジャージ羽織ってきたよ!!」
「なら別にいいじゃん。」
「よくないよ!!何?私は帰り、下着オンジャージをしろって言うの?ただの変態じゃない!!団蔵しか喜ばないよ!!」
「そんときはそんときだろ、」
「私の貴重な水分も無くなるし。今日はイタズラがすぎるよ…。兵ちゃんのばか、」
ポタポタと髪の毛先からレモネードが落ちる。ちふゆはプールにレモネードが入らないようにプールサイドに戻った。
ボクはまだプールの淵に座っている。爪先に水が触れるくらいに溜まってきた。やっとか、やっとだよ。
「〜…っ、今日はっ、ちふゆが、悪いんだからな!!」
「毎回私、悪くないよ!!」
持っていた大きめのタオルを投げ付けて、ボクはちふゆと反対の方向を向いた。
「……見張り代わってあげる、図書室行けば。」
「……あ、ありがと、う。」
「その代わり10分以内に交代来ないと、ちふゆに第2波がいくって、伝えといて。」
「やっぱり兵ちゃんだよ…」
人の気配が無くなったから立ち上がって振り向いてみると、ちふゆの足跡が校舎まで続いていた。
「……ボクには『ちゃん』付けるくせに、伝七や団蔵は呼び捨てなの、理不尽だろ…」
分かってるよ、醜いだろ。
みんな『ちゃん』つけて呼ばれてるし、呼び捨てのほうが少ないさ、ちふゆは。
呼び方の変化は無自覚だから、困るんだよ。
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(はにゃ、なんかちふゆ濡れてるー。プール落ちた?)
(せっかく伝七からもらったレモネード、兵ちゃんにかけられた)
(兵太夫グッジョブ!!なんかエロいから合格!!帰りは何?ブラオンジャージ?それとも…)
(伊助ちゃーん…体操着貸して)
(えー、あー、金吾が貸してくれるよ、きっと。)
(オレは帰り、何を着ろと。)
(うわぁぁん、下着オンジャージになるー…)
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うちの兵太夫はタオルを常備してる。あとちふゆは濡れてることが多いな。季節はずれごめんね。続き書きたい。