落乱

□お菓子の甘さに溶け込んだ、
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ぐしゃり、と包装を握り潰して枯れ葉やら砂やらが薄く積もった床に放った。
目の前のちふゆはそれを乗り越えて俺の隣へ腰掛ける。満面の笑みを浮かべて笑いかけてくるちふゆに、珍しくうぜえと思ってしまった。


「あいかわらず性格悪いね」

「おめぇにだけは、言われたくねぇよ」

「んー?何か言った?」


細く青白い腿が短いスカートから覗き、非常に目に毒だ。
俺が脚を見ていることに気付いてか、そうでないか知らないけれどその脚はゆっくりと組まれて、青白い腿はさっきより露出した。ちふゆに視線をやると携帯電話を両手で操作している。一体何をしに来たんだ、こいつは。放課後のこの時間、いつもならちふゆは部活か、もしくは帰るか、だ。俺は部活なんかやっていないが、バレー部の三之助と卓球部の左門を家まで送り届ける使命があるからな。毎日このようにして校内で時間を潰しているのだ。自分の膝に肘をついて短く息を吐いた。


「食べないで処分!!作にあげた子が知ったら涙目だね。本命いくつもらったの?」

「知らねぇよ」

「で、おいしかったって言うんでしょ?さいってい、」

ちふゆは顔をあげずに携帯電話の画面をじっと見詰めている。微笑んではいるが、いつもより苛立っているような、そんな表情をしていた。

「っるせーなァ…つーか何に手こずってんだよお前、」

「あっ」


携帯電話をちふゆから取り上げると、ちふゆの白い腕が伸びてきた。見られたくない内容の画面でもうつっているのだろうか、俺は悪知恵が働いてその場に立ち上がった。

「ちょ、作、返して」

ちふゆは必死になって立ち上がって背伸びしながら俺の腕を引いてきた。画面を覗こうとしたら脛を蹴られた。いてぇ。舌打ちをしてイラつきを隠さずに見下すと、ビビったのかびくりと肩を揺らした。弱々しくて、小動物みてぇだ。
その姿と表情に勝手に口角が上がってきて、自分でも性格の悪い顔をしているんだろうな、と自覚した。

「チビ。」

「わ、私が小さいんじゃなくて作がおっきいんでしょ、」


取り返すことを諦めたのか、ちふゆは腕を下ろした。

「返してくれないの?」

「画面見てからな」

「もう勝手にすれば」



画面を操作しながら、また座り直した。ちふゆもため息をつきながらまた俺の隣に腰を下ろす。同時に、ふわりと石鹸の香りがして、そちらをむくと丁度ちふゆが髪を耳にかけたところだった。小さい耳は俺の方をむいていて、無防備だなとかなんとか考えながら携帯電話の画面に視線を落とす。


「何、こいつ誰?」

携帯電話は予想通りラインをうつしていて、トーク画面だった。そして、トークの相手には『藤咲くん』と表示されていて、ちふゆの方を見るとバツが悪そうに髪の毛を指に巻き付けていた。


「ほら、隣のクラスの……、数馬と同じクラスの、軽音部の子。……バレンタインちょうだいってしつこくて、」

「ふぅん、…で?」

上の方にスクロールすると、確かにそんなことが表示されている。ただし妙な略語や言葉使いをしていてすげえウザかった。

「別に、渡してないけど、…」
「けど、?」
「……い、言わなきゃダメ?」
「けど、何?」

「作のそういうとこ嫌い。」

「へえ、?」


にやりと、また勝手に口角が上がった。
ちふゆは、俺の性格の悪い笑顔に気付いて防衛本能が働いたのか、小さく後ずさろうとした、がそれは俺の手によって遮られた。
胸元のネクタイを掴んで、引き寄せて唇を啄んだ。俺たちは付き合っている訳じゃないからキスなんてするのは初めてだけど、予想以上にちふゆの唇はやわらかくて小さかった。ちふゆの手が俺の胸板を押して離れようとするから後頭部を押さえ付けて舌を捩じ込もうとすると、苦しそうな声が隙間から漏れて、俺は調子が良くなってしまう。


「、…っ、」


視界の隅で球のような涙がこぼれ落ちたのをみて、よくやく口を離してやった。
唾液の糸がぷつりと切れて、俺は口を拭った。

ちふゆは口を薄くあけたまま顔を赤くさせて、肩で息をしていて、エロ漫画のシチュエーション見たいで笑えた。


「はっ、エロい顔」

「っ、…ば、かっ!!」

「何泣いてんだよ、」

「ほんと、うるさい…っ」

「で、言わないようならもっとひでぇことするが、」

そう、耳元で呟いてちふゆの顔を横目でみると、頬の筋肉をひきつらせて、小さく「嘘でしょう、」と泣きそうな声でいった。別に泣かれても困らないし、むしろ泣いてくれたほうが興奮するから、もっと脅しをかけようかな、と考えていると、ちふゆはぽつりぽつりと話始めた。

「藤咲くんが、さっき私のこと好きだって、…その、こ、くはくされて、」

「おう」

「藤咲くんのこと別に好きじゃないし、面倒臭いし、断ったら、富松のことすきなんだろ、ってなんか根も葉もないこと言われて…」

「根も葉もねぇって……」

「じゃあ、私、作のこと好きなのかなぁって思って、」

「ここに来たわけか、」

「……」

走る、沈黙。
ちふゆの腕時計の秒針が小さくなっていた。


「でもね、今、作にされたの、い、…嫌じゃ、なかったん…だよ」

その声に驚いて、ちふゆを見下ろすと、俯いて俺から顔を背けていた。耳は真っ赤になっている。
それをみて、気を良くした俺は性格悪いなぁ、と思いながらもちふゆの顔を覗きこんだ。

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