One night

□奇跡の世界
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神様は、多分いない。

神の第一条件って、何と尋ねられたら、こう答える……有言実行。神様にダメ出しされて、助かった奴はいない。この世界では、神様にかなう奴などいないのだ。
だから、この世界に起こることは全て、神のご意志なのだ。生命の誕生も、天災も、戦争も。どんな理不尽な出来事も、必ず相応の理由があるのだと。

……バカバカしい。

「……よお」

あまりにスンナリとラスボスの所へたどり着けたので、拍子抜けした。ゲームとなるとクソだが、現実となると最上階への道のりは、それなりに緊張した。手汗がすごい。
そんな俺に、この小さな世界の主が、ゆっくり振り返った。

「予定通り明日、帰るよ……最後に、一杯どうかと思ってな」

キッチンから勝手に貰ってきた一升瓶を床に置くと、奴がニヤリと笑った。イタズラするときの共犯者の笑顔。二十年経っても、何も変わっていない。
二週間前、高校卒業以来、姿を消した友に再会した。俺は調査会社に就職して、とある事案の調査で、山奥にある宗教団体を訪れていた。そこで、教祖と崇め奉られる此奴と会った、と言うわけだ。
高校時代は、抱かれたいランキング一位の俳優に似てるとか騒がれたイケメンだったが、こんな怪しいことになってるとは。正直、ひいた。
だが、ちょっと話してみれば、あの頃の奴すぎて、最後にサシで呑みたくなったのだ。

「……明日で帰るのか」

サラサラ・ヘアーの王子様みたいな外見なのに、湯飲みで豪快に日本酒をあおる。信者が見たら、ガッカリだぞ。

「……何が、楽しいんだ」
「いや、お前見てると……いまだに校則違反で〜すみたいな、感じだなと」
「お前は、生徒を悪の道に引きずり込む悪徳教師だな」
「俺の方は、年相応って言うんだよ」

友は、どんな人生送ってきたのか、あの頃のままの外見だった。少し身長は伸びたのか、話すときに見上げなければいけないのが悔しい。

「……世話になったな」

オレが滞りなく調査できたのは、間違いなく此奴のおかげだ。まぁ、この教団で、特筆すべき事柄なんて、二十年経っても変わらない此奴の外見くらいしかなかったが。

「寂しくなるな……」

湯飲みの酒を飲み干し、奴が目を細める。
高校卒業以来、音信不通になった奴が、何を今更、言うかね。オレは、お前の家に何回も様子を見に行ったし、他の奴らに尋ねてまわったんだぞ。
あれから何年たったと、思ってんだ。

「……遅いんだよ」
「……そうだな」

オレの冷ややかな態度に、奴が自嘲する。

「懐かしいは、虫がよすぎるな。でも……久しぶりに、楽しかったよ。ありがとう」

奴が杯を床に置いた。

「……たく、何で何時も自分一人で完結しちまうんだよ。わざわざ、そんなこと聞くために、此処まで来たんじゃねぇぞ」
「……すまなかったな。今まで」
「……遅いんだよ。言うのが」

奴に湯呑みを手渡し、なみなみと酒をついだ。後は、朝まで飲み明かす。
そして、また、お別れだ。

「……シギ」

昔から、此奴がオレの名を呼ぶと、何故かカタカナの響きがする。

「何だ。言い忘れたことでも、あるのか」
「……あれ、やっとかないか。最後まで、やってなかったし」

あれ……イヤなことを思い出した。今日と同じように酒を飲んで、若気の至り、エロ話のオンパレードになって……

「いや、あれは、あの時だけ……それまで、そんなことになったことねぇだろ」
「そうなんだけど。あの時と同じくらい、出来そうな気分なんだが」

酒は飲んだが、そこは冷静だろ。

「同じこと思うなんて、今やっとかないと一生後悔する、気がする。次会うことがあっても、二十年後に出来る気がしない」
「いや、お前、あの嫁さんいるだろ。第一夫人だとか、第二、第三……」
「……いるなぁ」
「それなのに、今更、男とヤる意味ないだろうが」
「ある」
「ない、ない、ない。オレだって、今まで男と最後まで、やってないし。このまま、清いままで一生終わりたい」
「……へぇ、シギは、あれから誰にも触らせてないのかぁ」

わぁ、オレ、今、此奴の変なスイッチ押したよなぁ。マズい。

「冷静になれ。よく考えたら、それほど、切羽詰まってないはずだ」
「……勃起した」

そのまま、奴に床に押しつけられた。股の辺りに硬い、あんまり想像したくないものの感触が。
興奮してるらしい荒い鼻息が頬に当たる。
奴の手がオレのズボンの前に置かれ、布越しにオレを確かめるように上下に動いた。

「バカ……よせ」
「絶対ダメなら、止めるよ」
「……お前、ズルい……」

返答に、奴の指に感じ始めたオレの迷いを読み取ったのか、ファスナーが下ろされ、生々しい感覚がオレを追い詰める。
奴はオレの瞳をジッと見つめると、そのまま覆い被さるように口づけてきた。

「ズルいよ……」

ズボンも下着もとっくに脱がされ、オレの股間の奥を奴の指が行き来している。むず痒いような、微熱をおびたような慣れない感覚に、奴のシャツをギュッと掴む。

「……シギ、大丈夫。もう少しだから……」

子供に言い聞かせるように、奴がもう片方の手でオレのペニスを愛撫する。奴の手が、吐き出されたもので湿った音を立てる。もう射精した回数は数えたくもない。

「シギ……」

指がオレの中から抜ける。
頼むから、そんな目でオレを見るな。

「……シギ」
「……来いよ」

オレは瞳を閉じた。奴の気配が全身を包み込んでくる。

こんな山の中まで、どうしてオレ一人で調査に来たのか、考えなかったのか。お前に、よく似た奴の写真を見つけただけで、こんな場所まで来たオレもバカだが。
オレは、これからも神は信じない。でも、特別……お前だけは信じてやる。だから、朝がきて離れても、もう会えなくても、オレのあげた大事なものを大切にしてくれよ。

「……シギ」

奴の熱いかたまりが、オレにゆっくり押しつけられる。ドロドロに溶かされたオレの砦は、もう奴を拒めない。苦しい位の熱量がオレの中を行き来する。
息が苦しい。重ねられた唇から、奴の舌がオレの吐息まで奪っていく。
オレは奴の背中に必死でしがみつく。
この時間が早く終わることを望みながら、永遠であれと、いるはずのない彼の人に願う。

「……シギ」

オレの熱に浮かされた譫言に、奴が苦笑する。

「分かってるよ……神様は、ちゃんといるんだよ、シギ……」
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