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□運命の
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最初は部員勧誘の為だった。
たまたま同じクラス。
たまたま近くにいた。
たまたま声をかけた。
ただ、それだけのはずだったのに…。
岩鳶高校へと向かう朝の電車。ざわざわと色々な所から話し声が聞こえてくる。
(あと1人かぁ…、と言っても今更難しいよなぁ…。声をかけたのも全部断られちゃったし…。)
ふと上を見ると、黒字でフィジカルトレーニングと書かれた黄色い本を読む見覚えのある顔があった。
「竜ヶ崎くん?電車通学だったんだ!」
「…えぇ。」
「…あ、ところでさぁ、同じクラスの友達としてお願いがあるんだけど…。」
「水泳部には入りませんから。」
「あれぇ!?まだ何も言ってないのになんで!?」
「ちょっと考えれば分かります。」
「えぇっ…。」
「その紙袋の中の部員募集ポスターと、そしておそらく入部特典と思われるイワトビちゃんストラップ水着バージョン。」
「あぁぅ…。」
「前にも言ったと思いますけど……僕は既に陸上部に入ったので。…それじゃあ。」
次に言う言葉が無く、どう返そうか決めあぐねていると竜ヶ崎くんは電車から降りてしまった。
「うぇっ?なんで!?駅次だよ?」
「すごーい、毎日一駅分走ってるんだぁ〜〜!」
緑の田んぼが広がる中を颯爽と走る竜ヶ崎くん。
走る彼の姿を少しでもよく見たくて、電車の窓に頬をぺったりとくっ付けた。
自分で決めた事をやり抜くストイックさ。陸上に取り組む真剣な態度。
…何故だろうか。彼にこんなにも惹かれてしまうのは…。
ー手に入らない物ほど欲しくなるー