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□遙かに離れる君
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「置いて……、かないで。」






ぼそりとつぶやかれた言葉は玄関に静かに消えた。















遙達は3年生になった。


クラス替えも3年連続、遙と真琴は同じクラス。担任もまた天ちゃん先生になった。




「俺たちも3年生かぁ…早いね、もう受験生だよ。」


「あぁ、そうだな…。めんどくさい。」


「ハルは勉強が嫌なんじゃなくて泳ぐ時間が無くなるのが嫌なんでしょ?」


「…なんで分かる。」


訝しむ視線をよそに、真琴は優しい眼差しを返す。


「っふふ、分かるよそれくらい。ハルは行きたい大学とかあるの?」


「別に。近い所でいい。」


「ハ、ハルらしいね…。」



苦笑いする真琴に少しムッとした遙は、逆に真琴に問いかけた。



「そういうお前はどうなんだ。」


「えっ?俺は…、えっと、まだ決まってない、かな…。」



歯切れ悪い上に言葉を濁す真琴。

いつもの真琴らしくない、と違和感がしたが、結局自分も決まってないじゃないか、と遙は鼻を鳴らした。










それから3ヶ月後、夏休み前。


帰り道、真琴と遙はいつも通り海岸線を2人で歩いていた。




「…ねぇ、ハル。」



そう静かに発せられた言葉は、なんだか重く沈むような雰囲気を纏っていた。

それを感じ取った遙が真琴に視線向けると、真琴はそのまま続けた。



「俺、 こっちの大学行かないんだ…。」


「…っ!」


どこかで聞いたことあるような台詞。


ぎゅうっと胸を締め付けられるような感覚に襲われながら遙は、その理由を聞いた。



「なっ…、どういう事だ、真琴?」



「親の転勤が決まってさ…。残って1人暮らしするって事も出来たけど、俺自身、ここじゃない、どこか違う場所に行ってみたいって思ったって言うか…。」



切なさの濃い瞳の中に、知らない場所への好奇心が一瞬光ったのを、遙は見逃さなかった。




真琴が手の届かない所へ行ってしまう。いつも一緒にいるのが当たり前の存在が、自分の手から滑り落ちてゆく。言い知れない恐怖に駆られる。






「…。」


「ごめん、ハル…今まで黙ってて…。でも毎日電話するし、長い休みができたらハルに会いに帰るから!」




ギリギリと強く締め付けられる胸の痛みに押しつぶされそうになった。



「……、…。」


「えっ?」


思考できない頭で紡ぎ出した言葉は、今の遙の心の声その物だった。



普段の自分なら言わないであろう言葉にハッと我に返る。


真琴は聞こえなかったと顔を覗き込むが、答える前に家に着いてしまった。


遙は元々答える気もなく、いつものように、真琴に別れを告げて自分の家の中に入った。




引き戸を閉めた途端、遙はどさりとその場にしゃがみ込んだ。










何が毎日電話する、だ。

何が長い休みができたら帰る、だ。

お前が側に居なくちゃ意味がないのに、お前も俺をそういう風に見ててくれてたんじゃないのか?






じわっと視界が歪む。




真琴、




「置いて……、かないで。」










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