弱虫ペダル

□荒北くんの事情
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「荒北くん。私と付き合って下さい。」

「ハァー!!朝からるっせな。毎度毎度しつけーんだよ。」

荒北くんの机の前、片手を差し出しての告白。某お見合い番組でよく目にするお決まりのポーズを取った私は、毎日の日課となっている、荒北くんへの愛の告白を今日も無事に済ませた。

椅子にふんぞり返って、足を机の上に投げ出し座っている荒北くんからは、ヒドイ返事が返って来たが、いつものことなので気にしない。

きっとこれは、彼なりの照れ隠しなのだと思っているから。
だって、ちょっとよく見ると嬉しそうだし…
ほら、口角が…
少し上がっているでしょ。

とにかく私は、この朝の日課を2年生で一緒のクラスになった次の日から続けている。
今日で何回目の失恋になるのだろうか…。
余裕でこれまでの前世と来世分の失恋は経験しているはずだ…。

でも何だかんだで、席替えの度に、黒板が見にくいだ、授業が聞こえないだ、場所が気に入らないだと言っては、私の隣にやって来る彼は、既に私の忠犬というか番犬みたいだなぁ〜と思ってしまう。

絶対に怒ると思うけど、荒北くんてドーベルマンとか土佐犬みたいな大きい犬ではなくて、チワワとかパピヨン系の小さいワンコな感じなんだよね。

「なにニヤニヤしてんだよ。ったく。」

チワワな彼が、撫でて撫でてと甘えてくる姿を想像してニヤついていると、隣から聞こえる不機嫌な声。

「ねぇ、荒北くん。インターハイが終わって、部活を引退したらデートしよ。原付でもロードバイクでも荒北くんの好きな方で良いからさ。」

荒北くんを覗き込むように顔を向け、声とは裏腹にさほど機嫌が悪くなさそうな彼に言ってみる。
どうせ、返ってくる言葉は想像出来てるんだけどね。

「ハァッ!!お前、原付とロード乗れんのかよ。」

普段なら直ぐに断るのに…。
いつもと違う返事に胸が踊ってしまう。

「インターハイまで2ヶ月あるから、それまでには何とかするよ。で、どっちが良い?」

脈ありと踏んだ私は、荒北くんの方へ身を乗り出し、自然と顔もほころんだ。

「駄目だ!!」

やっぱり…。
期待した分ダメージが…。

「危ねーだろ。原付もロードもお前が思ってるよりも危険なんだよ。代わりに、オレが何か考えて置いてやるから。今更逃げんのは無しだからな。」

そう言って椅子から立ち上がった彼は、後ろ手に右手を軽く上げ「便所行ってくる」と残し、教室から出て行った。

後ろ姿でも分かるくらい、耳を赤く染めて。

一体どんな顔して戻って来るんだろう。

私と一緒で赤い顔していれば良いと思うんだ。


………………

「福ちゃん、福ちゃん!!私ついに荒北くんとデートする約束をしたよ!!」

「インターハイが終わったらだろう?」

「そう。よく分かったね〜。」

「あいつも我慢していたんだ。インターハイが終わったら、お前の方が覚悟が必要になるぞ。」

「えっ………。」

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