パラレル
□Better
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Jside
その人は、それから毎日僕の店に来て決まったテラスのテーブルで仕事をしていた。
注文するのは柑橘系のすっきりとしたショコラ。まさ男性受けするとは思ってもいなかったから、こちらとしては嬉しい限りだった。
「櫻井さん?お疲れ様です」
櫻井さんは閉店までお店にいて、少し僕と話をして帰って行く。
「あ、松本さん!」
「これ、新作なんですけど味見してもらってもいいですかね?」
昨日徹夜をして作ったキャラメルのショコラ。
「え?僕なんかでいいんですか?」
「はい!櫻井さんにお願いしたいんです!」
作りながら考えてた。
これは・・・櫻井さんのお気に入りに入ってくれるだろうか?と。
「じゃぁ・・いただきます」
色気を漂わせる、厚めの唇に飲まれた俺のショコラをぼんやりと眺めていた。
「ん!おいひぃ!!」
「よかった!」
「・・っ僕、松本さんのショコラ大好きなんですよ!」
「ありがとうございます!嬉しいです」
「だから毎日来ちゃうんだよな〜」
「あの、つかぬ事をお聞きしますが・・職業は?」
「僕は・・小説家です。ほら、 向井竜三って人知ってます?」
「あ!あの本屋大賞の!?」
「ええ。あれは僕です」
「あぁ・・だからパソコン・・。」
「うん。ここ居心地良くて・・ごめんなさい、仕事場にしちゃって・・」
「全然いいんですよ!嬉しいです。僕のお店とショコラで櫻井さんのお手伝いをできるなんて」
「松本さんも頑張ってるのに・・」
「いいんですよ?それと、櫻井さん僕の年上ですよね?潤って呼んでください!それに、敬語もやめましょう?」
「じゃぁ・・まつ、潤も敬語はやめないか?俺のことも下の名前で・・・翔って」
オープンになった明るい性格に、また惹かれた。
「翔・・さん。翔とはよべないや」
「いつか・・いつか呼んでよ?」
「うん。」
この日は、ぐっと翔さんに近づいた日だった。
でも、この後もっと近づくことになるとは俺は思ってもいなかった。