DIABOLIK LOVERS小説  ~迷える館入り口〜

□愛玩人形  中編
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愛玩人形  中編  ・・・


窓も閉め切ったこの部屋で、いつからか毎日同じ事が繰り返される。

一体、いつまで続くのかも分からない。
だけど、ただひとつ言える事は、

私には希望なんて存在しない・・・・
神様なんて、いない。

無造作に乱れたシーツの上に、まるで遊び終わった人形のように横たわる。

ああ、体中が痛い・・・・。

けれども、起き上がって自分の身体を労わることすら出来ない。
そう、私はこのまま一生起き上がることさえ出来なくなればいいとさえ思っている。

そうすれば、きっと彼に会えるだろう・・・。

静かに伸ばした手で顔に触れる。
涙は流れていなかった。
彼以外には決して涙などみせたくはない。
悲しいなど、口が裂けても言えやしない。
それを望んだのも自分。

カラカラに乾いた唇にそっと触れる。

いつだったか、愛しい人との口付けを交わしたのは。
そんな記憶さえも消えかかろうとしているのか、思い出すことも出来ない。

目を瞑っても、開けても、思い出されるのは憎しみしかない人物だけ。
悲しい事に、心は枯れ果てているのに上気した肌はまるで生き返ったかのような赤い色をしている。

くやしい。
悲しい。
苦しい。

そんな言葉が次々と胸の中を騒ぎ立てる。

「おい、いつまで寝ている気だ・・・。」

ふと、そんな言葉が聞こえて視線をドアの方に向けると、いつもとは違う人物がそこに立っていた。

「・・・・・」

勿論、返す言葉なんて必要などない。
一度あわせた視線を外し、ゆっくりと起き上がる。
俯いたままその人物が口を開くのをただひたすら待った。

ドアにもたれかかるようにして立っていた人物がゆっくりと近づいて来る。

ドクン・・・

怖い事などもう、十分味わっているはずなのにいつでも私の胸は些細な事に音を鳴らす。
長い一日が始まり、また朝が来る。
ただ、それだけのこと。

「ふん・・・臭くて近づけたもんじゃないな・・・」

普通ならば傷つくようなこんな言葉でさえも、今の自分にとってはそれで誰も近づかないのならばむしろ幸せであるとさえ思う。

当然ながら今の自分は昨夜シンから浄化を受けた後、汚れた素肌のまま、汚れたベッドの上で横たわったままであるのだから。

「この女を風呂場へ連れて行け。戻ってくるまでにこの臭い匂いも何とかしろ。」

「かしこまりました。カルラ様」

”カルラ”と呼ばれた人物はそれ以上口を開く事はなく、さっさと部屋から出て行ってしまう。
入替わりに使用人が数名部屋へ入って来ると、部屋の掃除と共に浴室へ連れて行くために抱えられるようにして無理矢理部屋から連れ出された。

「・・・・・・」

勿論、抵抗したところで結果痛い目を見て終わりだという事も学んだ。
痛い思いも苦しい思いも十分過ぎる程味わったが、あえて言うならば痛い思いなど自ら望んでしたところで何のプラスにもならないのだ。
だから、私は何も考えずに何も感じることない人形になろうと思うのだ。

抵抗すれば馬鹿を見る。
信じれば裏切られる。

誰かがそんな事を言ったのを思い出す。
ああ、まさしく自分の事ではないかと今になって思う。

連れて来られた浴室で、使用人たちが頭から身体のすみずみまで丁寧に洗ってくれる。
まるで本当に人形のように。

ガタッ・・・

「・・・・・様・・・すから・・・・・」

その時、浴室の外から数名の声と騒がしさに一瞬誰もが手を止める。
ふと、ドアに人影が映ったのが視界に入り自然とそちらに顔を向けた。

ガチャン・・

「・・・!!い、いけません、ここは濡れてしまいますから!!」

ドアを開ける音と共に入って来た人物とそれを慌てて阻止しようとする使用人が表れる。


(なに・・・・?)

目の前にはカルラが立っていた。
視線で合図すると、周りにいた使用人達が慌てて浴室から出て行く。

一体、どうしようというのか、何が始まるというのか。
部屋以外で浄化をされた事がない為か自然と小刻みに震える自分に気付いた。

今更だ。

本当に。今更なんだと言うのだろうか。
泣きたくなるほどの衝動と、これから待ち受ける体罰のような恐怖に恐ろしくて声も出ない自分が惨めで情けなくてそれでいて哀れと感じる。

「ふん・・・少しは臭くなくなったか・・・。おい、立って後ろを向け」

低い声で命令のように告げられ、逃げることなど出来ない現実に絶望感を抱きながら震える足でおそるおそる立ち上がる。

チラリと見たカルラの表情は至って変わらず、冷酷な瞳だけがそそがれる。
シンもまた恐ろしく乱暴な男であったが、それ以上にこの目の前にいる男からは何の感情も読み取る事もできない程冷たいオーラだけが放たれていた。

重い身体に何とか力を入れようやく立ち上がったものの、力の入らない足下はふらつき、体勢を立て直そうとしたがここが浴室なだけに運悪く、すべって倒れこんでしまった。

「・・・・・っ・・・」

そんな自分に舌打ちと共にため息が聞こえ、気が付けば背後に気配を感じると既にカルラがそこにいた。

「手間をかけさせるな人間ごときが・・・・」

「・・・・・!!!!」

倒れこんだ状態で到底抵抗など出来るはずもなく、瞬時にカルラの手が凄い力で髪を掴みあげるとそのまま勢いよく首筋に牙が突き刺さった。

「うっ・・・・・・・!!!」

それはシンから毎晩受ける牙とはまた違い、鋭く長い牙が奥深くへと突き刺さる。
ドクドクと全身の血が吸い取られるようにして血の気が引く。
これも"浄化”と呼ばれるものなのだろうか。
シンと同じ行為をされている筈なのだが、まるで全身から生気を吸い取られているような程おぞましい気分になる。

「少しは浄化されて来たか・・・。悪くはない・・・・」

一体何を言っているのかよく分からなかったが、カルラからの浄化は再び続いた。
首筋から吸い取られる血液によって全身から体力が奪われ、次第に力が入らなくなってくる。

だらりと垂れ下がった両腕に、朦朧とした意識の中上だけを見つめた。

(このまま吸血が続けば私も死ぬのかな・・・・)

血の匂いが充満する浴室で初めて"死”という思いが募った。
今までは浄化と呼ばれる吸血行為は最初だけで、シンはそれから性行為に没頭していた。
それが今日初めて浄化という行為を行ったカルラは、今までの浄化と呼ばれる吸血行為とは違い、全身の血を抜き取るような行為であった。

「これでお前の持つ心臓から濁りのない血液が再び送り出される。」

ぐったりと倒れこんだユイの横でカルラはそう呟いた。
もう、立ち上がる気力も体力もなく、濡れた浴室の床で視線だけをさまよわせる。
立ち込める湯気の中で何かが動いた。

ドサリ・・・

何かが落とされる音がして、何度か瞬きをすれば視界に入ったカルラの顔からいつも巻いていたストールが外され首元を緩ませているのが見えた。


(・・・・・どうして・・・・)

動かない身体をまるで人形のようにして両足をひきずられ、力なく横たわったままの身体に影がさしかかった。

待ち受けていた恐怖はこれだったのだろうか。
死を連想させたのはこれだったのだろうか。

叫び声をあげれば楽になれるのか、いやどちらにしろ結末は変わらない。
ここには私を助けてくれる人などいない。
ここは孤独で寂しくそして死に一番近い場所。

だけど、彼らにとってはもしかすると光なのかもしれない。
私から見る闇は彼の目から見れば一寸の光と希望なのだろう。
生きる為に生きる術を探し、その為だけに闘うのだ。

「ファーストブラッドの血を絶やすわけにはいかないのだ・・・」

泣き叫びたい恐怖の中で彼がこぼした言葉。
それは、皮肉にもやはり彼らが生きる為の道具になってしまったという現実。

本来の目的は浄化などではなかったのだ。
彼らが恐れているのは病原体が自分達にも襲い掛かり、始祖の血が途絶える事。
それを阻止する為には、一族の血を絶やすことなく新しい命が必要であった。

そう、新しい命を生み出すに相応しい血を持つ新しい道具が・・・・・。


つづく・・・

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