BLEACH Dream

□第三章
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 美沙と共に食堂から部屋に帰ってきたなつみは、いつも通りに眠る支度をする。風呂に入り、上がると寝間着に着替え、髪を乾かしながら冷えた水をコップ1杯飲む。肌どうのこうのを気にしないなつみは、化粧水を顔に叩き込んでいる美沙を、面倒くささを表情に出しながら見つめる。
「毎日よくやるねぇ」
「あんたもちゃんと気を付けないと、そのうちシミまみれのカサッカサ肌になっちゃうんだから」
「……、どうでもいいよ」
飲み干したコップを持ち、シンクへ行くなつみ。
 それから歯を磨き終えると、美沙におやすみを言う。

 寝室に入るとなつみは一人、ベッドの上に座る。窓から差し込む月明かりを辿り、視界を空へと持ち上げていく。
「榮吉郎さんかぁ……」
目を細め、思い出を呼び起こす。
 初めての恋を教えてくれたのが京楽ならば、恋人というものを感じさせてくれたのは西堂だった。それはまだなつみが死神になって間もなくのこと、美沙の一括から始まった。

 なつみにとって、4回目となる非番の日の朝。
「もー!あたしは仕事があるんだから、そんな寂しそうな顔しないの!」
「だってぇ……」
出発する準備をテキパキ進めていく美沙を、ソファに座りながら恨めしそうに見上げるなつみ。
「美沙ちゃーん。お昼早く帰ってきてよー。それから夜もね。おねがーい!」
「早く友達つくらないから、休みの日に何していいかわからなくなるんでしょ。あたしにいつまでも甘えないでよ!」
なつみは玄関までズルズル美沙の後をつけ、屈んで草履を履く彼女に鬱陶しくせがんだ。
「本読むの飽きちゃうもん。トレーニングだってそんな長くできないしさぁ。暇だよー!!」
「あーもう、うるさい!そんなに暇なら、遊んでもらえる彼氏でもつくりなさい!」
「そんなぁ…、無茶言わないでよぉ」
「無茶じゃない!京楽隊長とどうにかなろうとする方が無茶よ!流魂街でも歩いてたら、案外良い人見つかるかもよ」
「穴場のお店探すのとわけ違うんだからね。簡単にはいかないよぉ」
「ゴネる前に行動しろ!じゃ、いってきます!」
「わー、美沙ちゃーん(涙)」
目の前でバタンと扉が閉まる。
「ふむむ。美沙ちゃんたら、いい加減言っちゃうんだから。ぼくに彼氏なんかできるわけないじゃん。京楽隊長みたく、こう、ぼくのハートをキュッてしちゃう人はいないんだから」
と呟きはするものの、ちゃっかり美沙の言うことを聞いて、外出する準備をする。
「でもまぁ、行くだけ行ってみよう。どーせ暇なんだし。そう!おいしいお店を探しに行くつもりでいこうじゃん」
ふんふん♪と鼻歌まじりにお気に入りの服に着替えていく。お出かけセットの入ったお気に入りの手さげに財布を突っ込み、流魂街へいざ行かん!と大股で部屋の外に出ると鍵をしっかりかけて、ふんぞり返って歩いていく。

 この散歩の目的は新しい発見をすることである。そのため、なつみは行きつけに行っては意味がないとし、まったく知らないところへと歩みを進めていた。
「ちょっといつもと違うとこ来るだけで、こんなにワクワクするなんてねぇ」
プワンプワンとした足取りで気の向くまま歩いていく。たまにいい香りに誘われつつ、財布と相談しつつ、なつみは休日を珍しくエンジョイしていた。
 と思っていたのだが、歩いてクタクタになったところでようやく気が付いた。
「あれ?あれあれあれ?あれ?」
なつみは道端でクルクルと回り、辺りの様子を見る。
「も、もしかして、これって、迷子?」
調子に乗って細い道をグングン進んでいたものだから、入り組んだ路地に行ってしまい、大通りへの戻り方がわからなくなってしまったのだ。
「ふにゅっ。よく見ると、なんだか飲み屋さんばっかり。暗いし、気味悪いよぉ」
とりあえず、野生のカンとやらで歩いてみるものの、知らない道のため、そんなにスタスタ行けず。
「うぅぅっ、美沙ちゃーん!!ぼくは迷子でぇすッ(泣)」
とうとう泣き出してしまったなつみ。今では考えられないが、当時の彼女はとっても寂しがり屋の泣き虫だった。その上、親友である美沙の存在がとてつもなく大きかった。
 手ぬぐいで涙に濡れる顔を懸命に拭きながら、前に進んでいくなつみ。こんなことになるのなら、出てくるんじゃなかったと後悔する。鼻をかみ終えても視線は下がったままだった。とそのとき、狭い屋根の隙間を縫って降ってくる太陽の光を受け、なつみの後ろから笠を被った影が近づき、彼女の肩に手を伸ばすのがわかった。嬉しさのあまり、なつみは振り返った。
「きょっ!」
しかしその目に飛び込んできたのは、憧れの京楽春水ではなく、見知らぬ死神だった。
「きょ?」
被っている笠をちょっと上げ、なつみの顔を不思議そうに見る男。
「変な挨拶の仕方だなァ。若い子の間で流行ってんの?それ(笑)」
「ちっ違いますよ!人違いしただけです」
「あぁ、そうなの?」
すると、男はなつみの頭を撫で始めた。
「どうしたァ?こんなところで女の子が一人泣きながら歩いてるだなんて」
なつみはそんな手を振り払った。
「やめてください!初対面なのに、馴れ馴れしいですよ!」
「そーんな、カッカしなさんなよ。迷子になっちまったからって、恥ずかしがるこた無いぜ」
「う、うるさいなぁ!誰も迷子だなんて言ってないじゃないですか!!///」
そう反論するなつみだったが、男は目を細めて冷たい視線を送る。
「でかい声で、『ぼくは迷子でぇすッ』て言ってたのお前じゃねぇのかよ」
「むきゅ!!!(聞かれてた!!!)」
なつみの反応を見て、面白くなってきたのか男はいきなりなつみの手を取り、乱暴に引っ張り、歩き始めた。
「なななっ、何ですか!?放してくださいー!!」
男の腕をペシペシ叩いたり、力いっぱい引きはがそうとするが、握られた手はどうにもこうにもびくともしない。
「やめときな。俺は見ての通り、死神だぜ。お嬢ちゃんには敵わないの。ダーイジョウブ。俺がデカい通りまで連れて行ってやるから。それとも、お嬢ちゃんの家まで送ってやろうか?」
「んな!!」
なつみはカチンときた。
「ぼくだって、死神です!今年入隊したばかりですが、三番隊所属の死神です!バカにしないでください!!」
「そうなの!?」
「そうですーッ」
ブンブンなつみは腕を振り回した。だが、男は驚いている割に握る力を緩めることはしない。
「でも迷子にゃ変わりないからな」
言って、どんどん歩いて行った。
「もー!!」
「そっかァ、三番隊な。俺は二番隊だ。隠密機動ってやつ、知ってるか?アレだよ、アレ」
暴れるなつみをなんのその、お構いなく男は勝手に言葉を続ける。
「しっかし、迷子になっちまうヤツを入隊させるなんてなァ。あぁ、隊舎に連れて行けば良いのかな?じゃあ」
「やめてくださいーッ!!!」
「わかったわかった。俺とキミとの秘密な!」
アハハっと笑う男の背中を蹴り飛ばしてやりたいと思うなつみであった。
「名前何ていうんだ?お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんはやめてください!ぼくは木之本なつみです」
「ふーん、なつみちゃんね。じゃあなつみちゃん、どうしてキミは迷子になんかなっちゃったんだ?」
「あなたには関係ありません!」
「そっかァ、初任給がもらえてうれしくなっちゃって、お買いものしてたらテンション上がって迷子になっちまったかァ」
「どんなですか!!そんなんじゃないですよ!!新しい出会いを求めて、知らない土地を歩いてみただけですよ!!」
「へェ、出会いねェ……」
「あ!良いお店との出会いですよ!別に、恋人候補を見つけようだなんて、そんなことは全然思ってもいませんからね。出会いって、その、人との出会いじゃないですよ!おいしいものとので」
「そ。彼氏が欲しいんだ、なつみちゃんは」
「違いますって!!!もう、放して!!」
そうなつみが叫ぶと、驚いたことに男はパッと握っていた手を放した。
「え……」
そしてなつみに振り返る。
「俺の名前は西堂榮吉郎。なつみちゃんの恋人候補、ヨロシクな!」
「んななっ///、何言ってるんですか」
「このまま帰る?それとも俺とお茶でもするか?」
西堂は自分の後ろを親指を立てて指し、なつみの返事を待った。なつみは彼の後ろを覗き込んだ。そこは、大通りだった。
「あっ…、本当に連れてきてくれたんですね」
「当たり前だろォ。俺がそんな酷いヤツに見えたかよ?」
「うぅっ、すいません(仮にも死神の先輩に当たる方なのに)」
「そうだ。仮にも死神の先輩だぞ!尊敬してもらいたいね!」
「(うわっ、心読まれた!)連れてきてくださり、ありがとうございました。ご迷惑おかけしました」
なつみは頭を下げた。
「おぅ!これに懲りたら、もう二度と一人であんな暗い道を歩かないことだ!わかったな!」
「はい」
返事をしたら、なつみは西堂にグシャグシャと頭を撫でられた。
「わわー!」
「で、この後どうするんだ、なつみちゃん。帰る?帰らない?」
やられた髪を整えつつ、なつみは考えた。そして小声ながらも答えを出した。
「……、助けていただいたお礼がしたいので、ぼくと少しお付き合いしていただけますか」
「フッ」
西堂は鼻で笑った。
「何ですか!何で笑うんですか!///」
「いや、うん。じゃ、お茶飲みに行こうか。なつみちゃん、泣きすぎて水分欲しいもんな」
「ちょっ、そんなんじゃないですよ!西堂さんへのお礼です!お礼に1杯ご馳走するんです!」
「わーかったわかった。ムキになってるとこもかわいいけど、ちょっとは笑ってるとこ見せてくれない?」
「ふむむっ!?///」
「俺の恋人になったんでしょ、なつみちゃん?」
「何で、いきなりそーなってるんですか!!」
「だってェ」
右手の人差し指を立て、何か思い出すように斜め上を見上げる西堂。
「さっきのそーゆー意味なんじゃないの?俺、そうやって受け止めちゃったけど」
「さっきぃ?………………、きゃぷ!!?あああ、あれは、お付き合いって、その恋人としてではなく!というか、ただお茶しに行くのにという、その、あの!///」
「もう遅ーい!俺はなつみちゃんの恋人候補から、早くも恋人に決定してしまったんですぅ!なつみちゃんから直々にな。仲良くしよーぜー!!」
「むきゃー!!!///」
抱きしめられ、なつみはてんやわんや。
「さて、早速初めてのデートに行こうぜ。俺の行きたいところで良いよな!迷子に案内できるわけないしよ!そいじゃ、レッツゴー!」
「わわーっ!!」
再び手を引っ張られるなつみであった。
 こうして、なつみの初めての恋人、西堂との恋愛期間がついていけないながらもスタートした。来る者拒まずの性格、そして断る理由も無いなつみは、手と同じく心も西堂にグイグイ引っ張られていくのだった。
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