BLEACH Dream

□第三章
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 西堂とは喫茶店を出たところで別れた。
「ほんとについて行かなくて、大丈夫か?なつみちゃん」
「大丈夫です!ちゃんと帰れます!」
「ふーん」
目を細めて、西堂はにんまり笑った。
「まーたツンケンしちゃってェ。おいしいもの食べてるときみたいに幸せそーに笑ってちょうだいよぉ」
「むぅ!西堂さんがぼくを子ども扱いするから、そりゃツンケンしますよ!」
「はいはい。わかったわかった。そうかァ、恋人扱いして欲しいんだな。そんじゃ、バイバイのチューでもするか?」
「しませんッ!」
なつみはクルっと方向転換して瀞霊廷へ続く道を歩き始めた。
「気をつけてなァ!なつみちゃん!」
返事もせず、プンスカ歩いていくなつみの背に西堂は手を振った。
「まァったく、ツイてんなァ俺は……」
この男、何か考えている。

 日も暮れると、美沙がなつみの待つ部屋へ帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえりー」
なつみは居間であられを食べていた。
「これさ、今日流魂街で買ってきたんだけどさ、ちょーおいしいよ!岩塩だってさ、岩塩」
お一つどうぞと差し出しながら言った。美沙は受け取りながら。
「ありがと。…、うん、おいしい」
「でしょ」
「というか、なんだ、ちゃんと出かけたんだ」
「そうだよ。行ったことないとこ歩いてね、良いお店いっぱい見つけちゃったの」
「そっか。それは良かったじゃない。もう1個ちょうだい」
美沙は食べてから、斬魄刀を自室に置きに行った。そこからなつみに話しかける。
「で?イイ男見つかったー?」
「ブフッ!!!」
飲んだお茶を噴き出した。
「良くない!良くない!良くない!」
なつみは抗議した。
「あんな人が恋人なんて、ぼ、ぼくは認めないぞぅ!」
「は?一応出会いはあったんだ。どんな人?」
「ぼくと付き合い始めたと思い込んでるような人!」
「えぇ!?何それ」
「知らない!西堂さんなんか、知らない!」
腕を組んでほっぺを膨らますなつみ。それを空いた扉の向こうから見る美沙。
「西堂さんっていうんだ。ちゃんと紹介しなさいよ、あんたの彼氏(笑)」
「彼氏じゃない!!(怒)」
そうやって怒ってる割には、顔真っ赤じゃない。ちょっとはその人のこと好きなんでしょ。と思う美沙であった。
「夕飯行くよ!なつみ!」
「うん!」
 それからなつみは美沙に質問攻めされた。もちろん、西堂の特徴を聞かされた後の感想は「京楽隊長と丸被りじゃない」だった。それでも美沙は、これからなつみのダダを聞かずに済むと思い、多少の安心をしていた。それに、悪口を言う口調であっても、これだけペラペラと西堂のことを話すのだから、やっぱりそれなりに惹かれているのだとも感じていた。

 その翌日の昼休みになり、なつみは食堂へ行こうとしていた。と、隊舎を出てすぐの向かいの塀に寄り掛かる男と目が合った。
「アーッ!!」
なつみはその男に指さしながら叫んだ。
「よ!なつみちゃん!待ってたぜ〜」
「西堂さん、何でここにいるんですかぁ!」
西堂は驚くなつみに近づき、ガバッと片手で抱き寄せる。
「何でってェ、デートするために決まってんじゃんよォ」
「決まってない決まってない決まってなーい!///」
両手をブンブン振り上げて抗議するなつみだが、西堂はそのまま彼女を連れて前進する。
「うどん好きって言ってたよな!うまいとこ知ってんだァ、俺」
「ぼくは隊の食堂で十分です!放してくださいー!」
上体を前に後ろに下に動かして、西堂の腕から逃れようとするがうまくいかない。
「きつねうどんが絶品なんだわ!」
「ふにゅ!?」
その大好きなワードに全神経が反応する。
「きつねうどん……?」
「そう、きつねうどん。お揚げがもう、ジューシーったらないの(笑)」
「行くーッ!!!」
そう叫ぶと、なつみは猛ダッシュで駆け出し、その場に西堂を置いていく。
「ややっ、なつみちゃん待ってェ!」
「早くー!西堂さん、早くー!」
振り返るなつみは、おいしいものが待ち遠しくて、その場でぴょんぴょん飛び跳ねている。そしてまた走り出す。
「そんなに急がなくたって、うどんは逃げないってェ!」
まーったく、ころころ表情変えちゃって、かわいいったらないなァ、と思いつつ、西堂は急ぐ素振りもなしになつみに声をかけた。
「一人で行っちゃダメだよォ!また迷子になるんだからァ!」
聞こえたのか、遠くの方でなつみは振り返り。
「ならないもん!!///(怒)」
叫んだ。

 その日からなつみと西堂は昼になると2人で流魂街へ出かけては、一緒にご飯を食べた。おいしいものには簡単に釣られてしまうなつみだから、西堂は何度も嫌がられてもデートに連れて行けなかった日は無い。そのうちなつみの中で、西堂イコールおいしいものというイメージができていた。そのため、西堂が迎えに来ると自然にヨダレが出てしまうこともしばしば。
 そんなこんなで、結局西堂に懐いてしまったなつみ。いつの間にかお互いを「なつみ」「榮吉郎さん」と呼ぶ仲になっていた。心をすっかり許したなつみは、自分から西堂を恋人だということは言わないまでも、それなりのスキンシップが見られるようになった。西堂は、なつみがこんなにも甘えたがりだったとは予想もしていなかっただろう。
「榮吉郎さん!今日はどこ行くの?」
あるときはこんな感じに、歩く西堂の後ろから抱きついて、ぴったりくっつくなつみ。
「そうだなァ。なつみはどこが良い?」
「榮吉郎さんの好きなとこー!」
きゅうっと力を入れて、もっと西堂とくっつこうとするなつみの腕を西堂はやさしくぽんぽん叩きながら、困りながらも嬉しそうに歩き続けた。
 なつみのルームメイト美沙はというと、西堂のことをなつみの恋人と確定していた。ということは、一応公認ということだった。
「まぁ、良いんじゃない?お似合いとは言えないけど、なつみにしては現実的で」
とのこと。
「なかなか手厳しいねェ、美沙ちゃんはァ」
「むむ!ぼくにしてはってどゆことだ!美沙ちゃん!」
はぁ…、ちゃっかり手ぇ握っちゃってさ、と呆れる美沙ちゃん。
「あたしも彼氏欲しいわ……」

 交際期間はグングン進んでいき、梅雨も明けた気持ちの良い夏の日、小物店に入った2人がいた。
「西堂さんて、ミサンガ似合いそうだよね!」
「どんなだよ」
「なんかぁ、大きめのゴツゴツしたアクセサリーは似合わなそうだもん。だから細いのが良いと思って」
「ミサンガなんて、学生がするモンだろ。オッサンがするモンじゃなーいの」
「そうかなぁ……。あ!」
なつみはちょこちょこと店の奥に進んでいき、ピアスのコーナーに見入った。
「この赤いの、絶対榮吉郎さんに似合うよ!」
ガラスケースの中に入った小さなピアスを一所懸命指さしながらなつみは言った。
「ばーか。耳飾りなんか、男はしねェよ。俺よりもなつみがした方が良いって」
「えー。じゃあ何が良いの、榮吉朗さん?いつもぼくといてくれるから、お礼に何かプレゼントしようかなって思ったのに。そんなにいらないいらない言わないで」
口をちょっと尖らせて西堂の顔を見上げるなつみに、今までにないくらいドキっとしてしまった西堂は慌てて被っていた笠をずらして顔を隠した。
「んなっ、そんなことォ気にしなくても良いんだよ!いつかな!いつか欲しいものができたときに言う!そんときに、俺が頼んだものくれよ。それで良いから。そんなかわいい顔すんな///」
ぐしゃぐしゃとなつみの頭を撫でた西堂。
「あわわっ、やめてよー」
西堂から離れて、近くの鏡の前でなつみは髪を直した。その間に西堂は店員に品を渡し、何やら購入していた。
「行くぞ、なつみ」
「あ!何か買ってる!欲しいものあったら言うって言ったじゃん!嘘つき!」
「うるせぇなァ。早く来い」
「むー」
拗ねたなつみはムッスリして西堂の後をついて店を出た。
 出たところで西堂はなつみに向き直り、袋から箱を、箱から一対のピアスを出した。
「耳出せ」
「う、うん。でもそれ…」
なつみは髪を耳の後ろにかけながら不安げに見上げた。
「だーいじょうぶ。心配しなさんな。こりゃ磁石だから穴はいらないの」
そう言いながら、なつみのぷにぷにした左右の耳たぶにマグネットピアスを着けてやる。
「やっぱりお前の方が似合うじゃねぇか」
顔を近づけられてそんなことを言われるものだから、なつみはぽっと頬を染めた。
「榮吉郎さんだって、着けたら似合うもん///」
「そうか」
着け終わったら、西堂は箱の入った袋を脇に挟んで、両手でなつみの顔をやさしく包んで見つめた。
「瞳の緑色とバッチリ合ってるぜ」
「///」
「そこの窓で見てみな」
なつみは解放され、店の窓に映る自分を見た。
「ほんとだ。すてきだね。ありがとう///」
「おう」
顔を左右に少しずらして角度を変えながら、これは良いものをもらったと喜んでいたなつみだったが、その窓の向こうに親指立てて「グッジョブ」ポーズをしている小物店の店員と目が合った。
「あわっ!///」
「どうした?」
「い、行こ!次行こ!」
照れくさくなって、なつみは慌てて西堂の背中を押した。
「何照れてるんだよォ、なつみさ〜ん」
「別に!!///」

 こんなラブラブな日々が、あと数か月も続いたのだった。
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