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たまに。すべてがどうでもよくなる。



今よりずっとずっと幼く、ずっとずっとちいさな頃。

いつだってどこだって、なにを考えているかわからない、薄気味悪く人間味のない子供だと、そう言われ続けていた。




辛うじて断片ながらも記憶に残っていることだが。

小学生のとき…階段を踏みはずし骨がひび割れたことがある。かなりの痛みはあったがそう騒ぎにすることではないし当時の同い年の連中は擦り傷だけで騒ぎ立てる馬鹿ばかりだったから、目立ちたくはない。興味本位での心配など心底めんどくさい。
おれは なんでもない 風を装おってじりじりと痛みを主張してくる患部を無視し、けして悟られぬように表情を押し込めた。保健室などいこうなどの選択肢はなかった。
きっと病院に直行しなくてはいけないだろうから、放課後の生徒がまばらになり始めた頃。保健室のセンセーに見せにいけば、ありえない、理解できないと、露骨にバケモノでも見るような目はたぶん、ずっと忘れられないだろう。









「国見?」

「…….ん、…なんだよらっきょヘッドかよ」

「らっきょじゃねえよ!」




…嫌な夢をみた。外の景色は気味が悪いぐらい真っ暗で、ガラスに映った自分が俺を見返してくる。
まだまだねむい。だが寝ようとは思えない。また同じようなものを、みてしまいそうな気がして。





「あ、国見。キャラメル食うか?」


ぼうっとする頭で、金田一を横目に見る。ガサガサと鞄から取り出したキャラメルのパッケージは、テレビで宣伝している新作のものだった。



「….それまだ食ったことねーからおまえ先食えよ」

「そんな毒味みたいなことさせんじゃねえよ!」




金田一はいつも通り。
それが今はそこはかとなくおれに安心を与える。

ぶつぶつと文句を言いながら口にキャラメルを放り込んだ金田一の肩にかけてあるスポーツバックを強引に引っ張った。どうせふたりしか乗ってない。







「….うん、美味い。これ全部寄越せよらっきょ」



口の中のキャラメルをころころ転がしながら、放心状態の金田一から袋ごと取り上げる。








たまに、すべてがどうでもよくなることがある。
それは悪い意味だけでは、ないのだけども。

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