5000HIT記念小説
□眠れる森の美女
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むかしむかし、とある所に。
美しい姫が生まれました。
姫は翔と名づけられ、国では翔姫の誕生を祝うパーティーが開かれました。
色々な場所から魔法使いも招待され、特に音也・那月・トキヤの三人は翔姫に会えるのを心待ちにしていました。
「ね、ね!翔姫ってどんな人なのかな!」
元気に話す一人目の魔法使い、音也。
「翔姫はと〜っても可愛い方みたいですよ〜。楽しみです!」
可愛いものに目がない二人目の魔法使い、那月。
「あまりはしゃがないように。翔姫にお似合いのものを差し上げるんですよ」
なんだかんだ言って楽しみにしてる三人目、トキヤ。
そんなちぐはぐな三人ですが、これでも優秀な魔法使いです。
三人は広間のテーブルに座り、翔姫に会えるの待っていました。
「あっ、翔姫がお越しになったわ!」
会場にいた一人の女性の声で、みなはドアに目を向けました。ドアの向こうには、王様と翔姫を腕に抱いたお妃様。
二人はゆったりとした足取りで玉座に座り、王様が声をあげます。
「本日は集まって頂き、本当にありがとう。こんなにたくさんの魔法使いに祝福され、翔姫も幸せでしょう」
続けてお妃様も言います。
「ささやかながら、食事を用意させて頂きました。遠慮なく召し上がってくださいませ」
翔姫はそんなお妃様に抱かれて、きゃっきゃと笑っています。誰もが、そんな翔姫の姿に顔をほころばせました。
魔法使いが順に席を立ち、翔姫の元へ向かいます。翔姫にお祝いの魔法をかけるために。
一人、二人、三人。全部で何十人もの魔法使いが魔法をかけました。
そんな魔法使い達を見て、変わらず翔姫は可愛らしい笑顔を向けるのです。
「あ、トキヤ!那月!俺たちの番だよ!」
早く翔姫を近くで見たかった音也が、声をあげます。三人は優秀なため、最後に魔法をかけることになっていたのです。
音也の声に、那月とトキヤも腰を上げて翔姫の元へと行きました。
「わぁ!すっごくかわいいです!!」
「ホントだ、かわいい!ね、トキヤもそう思うよね!」
「え、えぇ…。本当に愛らしいですね」
キラキラ輝く金髪に、空よりも澄んだ碧眼。まるで妖精のような容姿の翔姫に、
三人は感嘆の声を上げました。
「じゃあ、僕からいきますね。僕の贈り物は、妖精さんみたいな愛らしさです!翔ちゃ…翔姫が、ずっとかわいくありますよーに!」
那月は魔法をかけると、翔姫の頬に口づけを落としました。
ふわりふわりと那月の魔法が翔姫を包みます。
「じゃあ、次は俺!俺はね、元気の魔法!!翔姫が、ずっと笑顔でいられますように!」
音也も魔法をかけると、那月と同じように翔姫に口づけを落としました。
翔姫は音也の星のような魔法に手を伸ばし、笑います。
「最後は私ですね。私は、」
「おやおや。可愛いプリンセスが生まれたのに、俺には報告なしかい?」
最後にトキヤが魔法をかけようとしたとき、広間に低いテノールが響きました。
「げっ、レン…」
「その態度はひどいなぁ、イッキ」
音也の小さな呟きに肩をすくめた長身の男。
オレンジ色の長髪、切れ長の瞳。
当たり前に、広間にいる女性から甘い声が溢れます。
―――突然広間に現れたこの男は、那月や音也、トキヤと同じ魔法使いのレン。
少し不満そうなレンに、王様がおそるおそる答えました。
「ま、魔法使い全員に招待状を送ったはず…!なぜ届いて…」
「あ、すみません。レンへの招待状は、私が破って捨てたので」
「―――はっ?」
広間全体の時間が止まりました。
トキヤはそんな空気をものともせず、ため息を吐きながら説明をします。
「よく考えてみてください。特に、音也と四ノ宮さん。――レンがこんなに可愛らしい翔姫を見たらどうなるか」
「…襲うね、絶対……」
「翔ちゃん…」
トキヤの言葉に、音也は即答します。那月はもはや、翔ちゃん呼びを直す気はないようです。
「まったく…ひどい言われようだなぁ。翔姫はこんなに可愛いんだから、ちょっとくらい独り占めしたくなって当たり前じゃないか」
レンはわざとらしく肩をすくめると、きょとんとしている翔姫のこめかみに口づけをしました。
「あーっ!ずるいよレン!!俺だってほっぺで我慢したのに!」
「レン、あなたって人は…」
「レンくんにちゅーされてもきょとんとしてる翔ちゃん、かわいいです!」
非難の声(と一人なんとなく違うような声)を受けても、レンは飄々としていました。
そのままレンは翔姫にふっと息を吹きかけ、紡ぐように言葉を発します。
「じゃあ、俺からも贈り物をね。15歳の誕生日に、おちびちゃんは糸車の針に指を刺してしまう。そしたら――もうおちびちゃんは俺のもの」
「はぁーっ!?」
レンのとんでもない魔法に、広間にいる全員が驚きました。レンはそんな中翔姫に再び口づけを落とすと、「じゃあね、マイハニー」などと言うと姿を消します。
「……………」
沈黙が、広間を包み。
最初に沈黙を破ったのは、音也でした。
王様もトキヤに詰め寄ります。
「ちょっとトキヤ!レンあんなことほざいたけど!?どーすんの!」
「あの者のものになると言ったが…!翔姫はどうなるのだ!?」
音也と王様に質問され、トキヤはしばらく悩んでから顔をあげました。
「王様。もしも翔姫がレンのものになってしまえば…」
「ど、どうなってしまうのだ…!」
「…私の口からは、とても言えません…!」
「!?」
「しかし、まだ方法はあります」
そう言うと、トキヤは翔姫を抱き上げました。「トキヤ、ずるい!」「トキヤくん、羨ましいです!」などと聞こえた声は、もちろん無視して。
「残っている私の魔法を使います。翔姫は、糸車の針で指を刺してもレンのものにはなりません。眠るのです。いつか翔姫を真に救いたいと思う王子の口づけで、翔姫は目を覚ますでしょう」
トキヤは音也や那月と同じように翔姫の頬に口づけ、そっとおろしました。
広間にはレンが現れる前と変わらず、翔姫の笑い声が響いていました。