一日一題 小説
□重ねる
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「――いっ…!」
珍しく俺と日向しかいない部室で、唐突に日向が小さい悲鳴をあげた。
「ん?日向、どうしたー?」
そこまで大事ではないだろうと予測して振り返ると、そこにはうずくまった日向がいた。
じっと自分の指を見つめていた日向は、俺が見ているのに気づくと助かったとばかりに顔を上げた。
「す、菅原さん〜」
「どうしたんだ――ん?」
傍に寄ると、日向は少しだけ潤んだ瞳で見上げてきた。
不自然に伸ばされた左手の人差し指。よく見るとその細い指先には、真っ赤な血が浮かんでいた。
それは、どう見ても切り傷。
「紙で切ったりでもしたか?」
こくこくと頷く日向に合わせて指先も揺れる。今にも血が垂れてしまいそうだ。
大事ではないだろうとは思っていたが、少し傷が深そうで心配になる。
「ちょっと待っててな、確か絆創膏持ってたから」
バッグの中を漁ると、いつ入れたか分かりないような絆創膏が出てきた。少し古いけど、多分大丈夫だろう。
「日向、手出して。絆創膏貼ってやるから」
「うぅ…すみません……」
おそるおそる差し出された手を掴み、出来るだけ丁寧に絆創膏を巻く。普段の生活で絆創膏を巻くことなんて滅多にないから手つきが拙い。
「…日向は手がちっちゃいなぁ」
絆創膏を巻きながら、ふと漏れた本音。
さほど大きくないはずの俺の手でも、すっぽりと包み込めてしまう両手。
あぁそう言えば、前にボールが片手で持てないとしょげてたっけ。
「…これからおっきくなります」
少し拗ねたような口調で日向が言う。
顔を上げると、思いのほか近い所に日向の顔があって驚く。
―――飴玉のようなその瞳を、紅く色づく唇を。舐めたらどんな味がするだろうか、なんて。
全てを押し殺して「そうだな」と微笑み、絆創膏を巻き終えた日向の手にそっと己の手を重ねた。
*重ねる*
(叶うならばずっとこのままで、なんて)
2014.11.28