一日一題 小説

□別れる
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※直接的な表現はありませんが、死ネタ注意です。













――ふと、目を開ける。

土方さんがいて、僕がいて。二人だけで縁側でお茶をしていて。

庭には名前も分からない花が咲き乱れていて、それをただ、二人寄り添って見ていて。

そこには、戦のときの火薬の匂いも、血の匂いもなくて――。


土方さんが、微笑む。寂しげに眉を寄せて、泣いてしまうかのようにも見えた。


「総司」


名前を、呼ばれる。あぁいつぶりだろう、貴方に名前を呼ばれるなんて。


「総司、総司…」


何度も僕の名前を呼ぶ声は、まるで何かに縋り付いているかのよう。

大丈夫、大丈夫。ねぇ土方さん。僕はここにいるから。


手を伸ばす。土方さんの頬に指先が触れた瞬間、風のような早さで掻き抱かれた。


「総司、総司…!すまねぇ…!!」


僕を抱き締めて、土方さんは泣き叫ぶように繰り返す。肩が濡れるのを感じて、泣いていることに気づいた。


――どうして、泣いているんですか。どうして、そんなに悲しそうなんですか。ねぇどうして、辛そうな貴方が目の前にいるのに、僕の声は出ないのですか―――…。







「―――――っ!?」


目を、開ける。


飛び込んできたのは見慣れた天井で、僕がいたのは布団の中で。

――嗚呼、夢を、みていたのか。

幸せな、幸せな夢だった。今また眠りにつけば、あの幸せな夢をまたみられるだろうか。


右手をあげる。骨張った、血の気のない手。もう、刀すら握れないであろう右手。

嗚呼、この手が貴方に届くなら。貴方が、この手を握り締めてくれてくれるのなら。僕はきっと、こんな苦しまずにいられるのに。


――ふと。

伸ばした右手が温もりで包まれ、瞳を開ける。
…そこには、あれだけ会いたいと願った土方さんがいて。


どうして、なんで。そんな台詞は零れなかった。僕はきっと、あの夢の続きをみているのだろうから。

――嗚呼でも、今度は貴方に触れることができる。伝えたかったことが、言える。


「ひじ、かたさ――ぼく、は、あなたが、」





世界が、遠くなった。






*別れる*
(死して尚、貴方を愛する。)



2015.03.20

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