うた☆プリ 短編

□一夜限りの新妻さん
1ページ/2ページ




ガチャリと、部屋のドアを開ける。


――Aクラスの実習が長引いて、すっかり遅くなってしまった。  


今日の夕飯はどうしようか、などと考えていると、ふと部屋に広がる食事の香りに気づく。


そして、ドアが開いた音が聞こえたのか、パタパタと駆け寄る足音。



「真斗!遅かったな。もう夕飯出来てるぞ」


顔を上げると、そこに立っていたのはエプロンを身につけた来栖。

…疲れすぎて、俺は幻覚を見ているのだろうか?

割と本気で目をこすって頬をつねってみたが…どうやら幻覚ではないようだ。


来栖は俺の行動に首を傾げていたが、料理がそのままなのに気づくと「あと少しで夕飯できっから!」と言って背を向けてしまった。


――今日は何かあっただろうか。


ぼんやりと考えながら、リビングへと向かう。
どうやら神宮寺は留守にしているらしい。


食卓につくと、料理を作り終えたらしい来栖が、エプロンを外しながら向かい側に座った。



「キッチン、勝手に借りてごめんな。あ、でも、レンにはちゃんと許可取ってっから!!」
「それは別に構わんが…」
「あっ!あと、和食ってあんまり作んねぇから、真斗の口にあうか分かんねぇけど……」



来栖は一方的にそう言うと、うつむいたまま黙ってしまった。

――心なしか、来栖の耳が赤い。


「して、いきなりどうしたのだ?急に訪ねてくるなど…」

「そっ、れは…えっと…」


来栖は林檎のように赤い顔を上げると、ストンと俺の隣に座った。




―――ちゅっ。



「くっ、来栖!?」

俺の頬に落ちてきたのは、紛れもない、来栖からの口づけ。


「今日は、真斗の誕生日だから――喜んでもらおうと思ったんだ…。迷惑、だったか…?」


頬を赤く染めながら来栖が告げたのは、何よりも嬉しい、祝いの言葉。


「――ありがとう、来栖…」


隣にいる来栖を力の限り抱きしめた。
いつもなら抵抗してくるが、今日は大人しく腕の中に収まってくれる。



「今日は真斗のしたいこと、何でもしてやるよ。いつも、してもらってばっかだしな」

抱きしめた腕の中から聞こえたのは、そんな甘い台詞。

それなら、と口を開いた。



「しばらく、こうしていたい。お前を身体中で感じていたい。…だめか?」

耳元で囁くと、来栖は笑って俺の背に手をまわした。

「いーよ。真斗がそうしたいなら…。なんか、まるで俺が新妻みたいだな」

「そうだな…。一夜限りの、俺だけの新妻だ」


本気でそう言えば、来栖は驚いたようにまばたきした後、綺麗に笑んだ。



「大好きだ、真斗。――誕生日、おめでとう」

「俺も、愛している――翔」





月光が優しく二人を包む中。


いつかこの関係がまた一歩進むように。


小さな願いを込めて、俺はお前と甘い口づけを交わした。






*Fin*
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ