うた☆プリ 短編
□一夜限りの新妻さん
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ガチャリと、部屋のドアを開ける。
――Aクラスの実習が長引いて、すっかり遅くなってしまった。
今日の夕飯はどうしようか、などと考えていると、ふと部屋に広がる食事の香りに気づく。
そして、ドアが開いた音が聞こえたのか、パタパタと駆け寄る足音。
「真斗!遅かったな。もう夕飯出来てるぞ」
顔を上げると、そこに立っていたのはエプロンを身につけた来栖。
…疲れすぎて、俺は幻覚を見ているのだろうか?
割と本気で目をこすって頬をつねってみたが…どうやら幻覚ではないようだ。
来栖は俺の行動に首を傾げていたが、料理がそのままなのに気づくと「あと少しで夕飯できっから!」と言って背を向けてしまった。
――今日は何かあっただろうか。
ぼんやりと考えながら、リビングへと向かう。
どうやら神宮寺は留守にしているらしい。
食卓につくと、料理を作り終えたらしい来栖が、エプロンを外しながら向かい側に座った。
「キッチン、勝手に借りてごめんな。あ、でも、レンにはちゃんと許可取ってっから!!」
「それは別に構わんが…」
「あっ!あと、和食ってあんまり作んねぇから、真斗の口にあうか分かんねぇけど……」
来栖は一方的にそう言うと、うつむいたまま黙ってしまった。
――心なしか、来栖の耳が赤い。
「して、いきなりどうしたのだ?急に訪ねてくるなど…」
「そっ、れは…えっと…」
来栖は林檎のように赤い顔を上げると、ストンと俺の隣に座った。
―――ちゅっ。
「くっ、来栖!?」
俺の頬に落ちてきたのは、紛れもない、来栖からの口づけ。
「今日は、真斗の誕生日だから――喜んでもらおうと思ったんだ…。迷惑、だったか…?」
頬を赤く染めながら来栖が告げたのは、何よりも嬉しい、祝いの言葉。
「――ありがとう、来栖…」
隣にいる来栖を力の限り抱きしめた。
いつもなら抵抗してくるが、今日は大人しく腕の中に収まってくれる。
「今日は真斗のしたいこと、何でもしてやるよ。いつも、してもらってばっかだしな」
抱きしめた腕の中から聞こえたのは、そんな甘い台詞。
それなら、と口を開いた。
「しばらく、こうしていたい。お前を身体中で感じていたい。…だめか?」
耳元で囁くと、来栖は笑って俺の背に手をまわした。
「いーよ。真斗がそうしたいなら…。なんか、まるで俺が新妻みたいだな」
「そうだな…。一夜限りの、俺だけの新妻だ」
本気でそう言えば、来栖は驚いたようにまばたきした後、綺麗に笑んだ。
「大好きだ、真斗。――誕生日、おめでとう」
「俺も、愛している――翔」
月光が優しく二人を包む中。
いつかこの関係がまた一歩進むように。
小さな願いを込めて、俺はお前と甘い口づけを交わした。
*Fin*