うた☆プリ 短編
□舞い散る雪は羽根のように
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朝起きたら、外がやけに明るい気がして。
まさか、なんて期待を込めてカーテンを開けたら案の定。
「すごい…。翔、翔!見て!雪積もってるよ!」
まだベッドで夢の中にいる、愛しい恋人を揺り起こす。
微かに身じろいでから目を覚ました翔は、まだ半分夢の中。
それでもしばらくすると澄んだ空色の瞳の焦点が合ってきて、窓から差し込んでくる光に目をしばたたかせる。
「音、也…?」
「うん。翔、おはよ!」
「おはよ…朝からハイテンションだな…」
「だって翔!外見てみなよ!」
「外…?」
ゆっくりと体を起こした翔の手を引き、二人で窓際に立つ。
窓の外、視界いっぱいに広がる銀世界を見た翔が、繋いだままの俺の手を強く握った。
「――雪!?一晩でこんなに積もったのか!」
朝日を反射させている雪に負けないくらい瞳を輝かせた翔が、食い入るように窓の外を見つめる。
――そんな風に見てたら、雪にまで嫉妬しちゃいそう。なんて。
らしくないことを考えてることに気づいて、慌てて頭を振った。
あぁもうダメだな、俺。
「ね、翔!外行って遊ぼうよ!」
「そうだな!じゃ、支度して早く行こうぜ!」
――雪より何より、翔の笑顔の方がキラキラして見えるんだから、さ。
.・.+.・.+.・.
すごいすごい!めっちゃ積もってるぜ!」
澄んだ冬の空気に、翔の笑い声が響く。音を吸い込むはずの雪も、翔の声だけはやけに響かせて。
「あ…」
「おっ、また降ってきたな!」
ふわりふわりと再び舞い落ちる、綿のような牡丹雪。
そして、そんな雪を追いかけるように駆け、くるくると回る翔。
それはまるで―――
「翔、天使みたい…」
光を反射させてキラキラ光る金髪。何もかも見通してしまいそうな碧眼。舞い散る羽根のような――雪。
そこにはまるで、天使がいるよう。
そのコトバを聞いた翔が、振り向いて笑った。綺麗に、儚く。
「あっ…」
「天使、か…。なれるかな、俺も… 」
――あぁもう、俺のバカ。
後悔したけど、もう後の祭りで。
軽く心臓の辺りを押さえながら、翔が吐息だけで尋ねてくる。なぁ、俺は天使になれると思う?――と。
未完成で不安定な、翔の心臓。
握った拳の下ではきっと、普通の人よりも弱い鼓動が響いてる。
でも、それでも。
――翔は、確かにここにいる。
駆けて、翔の身体を目一杯抱きしめて。
あらん限りの力で叫んだ。
どうか届け、響け、俺の気持ち。
「天使になんか、させないから!!」
確かに翔は天使みたいに綺麗だけど、それはただ綺麗なだけであって。
本当の天使なんか、絶対にさせない。
「翔、ごめん。俺が翔を天使になんてさせないから、だから…そんなこと言わないで」
「おと、や…うん、ごめん。音也とずっと一緒だって、約束したもんな」
顔をあげた翔の頬に、小さなキスを落とす。
「くすぐったい」と笑ってキスを返してくれる翔が愛しくて、また一つ。
飽きるまで抱き合いながら、頬に、額に、瞼に、唇に、顔中にキスをした。
――抱きしめた腕に、翔の鼓動を感じた。
*舞い散る雪は羽根のように*
(その羽根に、願いを込めて。)
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