うた☆プリ 短編

□Lui e Lei su amore.
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2月14日。

世では言わずとも知れたバレンタインだけど。

ST☆RISHのメンバーにとっては、それよりも大切なことがある。


――そう。神宮寺レンの、俺の恋人の誕生日だから…。




*Lui e Lei su amore*
(もっと愛して、深く深く。)



「レン、誕生日おめでと〜!!」


イベント事になると一番張り切るのはもちろん音也で。
仕事が終わってからメンバーを集めて、パーティーの準備をしていた。

ちょっと遅く始まったパーティーだけど盛り上がってるし、みんな楽しそうにレンを祝ってる。…けど。


――部屋の隅でちいさく吐き出した俺の息は、重い。


別に誕生日を恋人と二人きりで過ごしたかったとか、そんな女みたいなことを思ってるワケじゃない。

ただ、嫌気がさすだけ。
俺という、ちっぽけな存在に。



「――う、翔。あなたは祝わなくていいんですか?」
「っ…!」


部屋の隅に佇んでいた俺を目ざとく見つけて声をかけてきたのは、やっぱりトキヤで。
俺とレンの関係を知ってるからこその気遣いが、今は痛い。


「お、俺はいいよ!レン楽しそうだから邪魔しちゃ悪ぃし、誕生日とか、いつでも祝えるからさ!」


俺らしくないだろうな、なんて思いながら笑顔を作る。

視界の端では、音也とか那月に囲まれて笑っているレンが映って。


――あぁ、こんなんキャラじゃねぇのに。
こんな…情けなくて泣きそうな俺なんて。


小さく鼻を啜ると、隣のトキヤが溜め息をついたのが分かった。

そしてそんなトキヤが次に発したのは、予想外のセリフ。


「レン、翔が体調が優れないそうですよ。外に連れて行ってはどうですか」
「! トキっ…」


どうして、と続くはずの言葉は言えなかった。

近づいたレンが、俺を抱き上げたから。


「…っ、レン!」
「大丈夫?おちびちゃん。無理しないで言ってくれれば良かったのに」


レンの肩ごしに、トキヤが仕方なさそうにこっちを見てるのが分かった。

トキヤの気づかいが優しくて、音也たちには申し訳なくて、――レンの温もりが嬉しくて。

結局何も言えないまま、レンに抱き上げられて部屋を出た。




.・.*.・.*.・.*.・.





「――で、おちびちゃんは何をそんなに拗ねてるのかな?」


誰もいないレッスンルームに連れて来られ、率直に尋ねられる。

レンは椅子に座って、俺はレンの膝に向かい合って座らされて。
身じろぐことも、視線を逸らすことも、沈黙を通すことさえできない。

レンの視線に、拘束されてるみたいだ。


「ほら、おちびちゃん。なんで?」


――もう、どうにでもなれ。




「…誕生日プレゼントっ!迷って、結局何も買えなかったんだよ!!せっかく、レンの一番欲しいもの送りたかったのに…っ!」


自分でも分かってる。
キャラじゃないことも、女々しいことも。

でも、大好きな相手だからこそ一番喜ぶものを送りたかった。

それができない自分が、――情けない。



拙い言葉で、嗚咽混じりの声で。
想いを吐き出した俺を、レンはそっと抱きしめた。


「じゃあさ、翔。誕生日プレゼントの代わりに、俺のワガママを聞いてくれる?」


耳元で囁かれたセリフに、必死で頷く。
俺がレンにあげられるものなら、何だって差し出せると思った。

しゅるしゅると微かに響く衣擦れの音と、首筋に感じる布の肌触り。



――俺の首に巻かれた、真っ赤に輝くリボン。
それから、「誕生日プレゼントには、翔が欲しいな」なんて。


まるで映画のワンシーンのよう。

本当にそれでいいのか…?と聞くと、それがいいんだよ、と言ってレンは笑って。


「ね、おちびちゃん。君を俺にちょうだい?」

「…ん。俺の全部、レンにやる」


返品不可だから。そう小さく呟くと、そっと唇が重なった。



甘いキスを交わしてから、言い忘れてたコトバを。







「――誕生日おめでとう、レン」













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