薄桜鬼
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『あ、猫…』
桜を見上げて、隣を歩いていた沖田が声をあげた。
平助もつられて見上げると、確かに桜の木の上で猫が縮こまっていた。
『降りられなくなったのかな?猫って本当にバカだよね〜』
沖田はそのまま通り抜けようとするけれど、平助は動かない。
『――平助?どうしたの?』
『…俺、あの猫助けてから行くよ。総司は先に行ってて!』
『はいはい。本当にお人好しだよね』
そう言って去って行く沖田の後ろ姿を見送ってから、平助は桜の枝に手をかけた。
『よっ…と――』
「―――で、猫を抱きかかえてそのまま落ちた、と?」
「うん…」
土で汚れた平助の頬を拭いながら、原田は尋ねる。平助は小さく頷いた。
「ったく――」
幼い頃から知っているこの弟のような存在は、時折、こんな風に無茶をする。優しすぎるが故に、自分の危険をかえりみないのだ。
「で?猫は助かったのか?」
「あっ…」
原田が溜め息混じりに訊くと、平助は慌てて周囲を確認する。落ちる直前、確かに猫をこの腕に抱いていたのだ。
――しかし。
「落ちたときに逃げちゃったのかも。すっごく可愛かったんだけどなぁ」
何もいない両腕を差し出し、平助は微笑んだ。
けれどその腕には、木の枝で引っ掛けたり、猫に引っかかれたのであろう傷が無数にあった。
「無理、すんなよ?」
撫でるように腕に触れられ、平助は微かに頬を赤く染める。
こんなとき、改めて感じる。
――自分は、原田のことが本当に好きなのだと。