薄桜鬼
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「総司」
平助を置いたまま屋上を出てすぐ。
土方が口を開けば、沖田の肩が小さく震えた。
「あ、ごめんなさい…。秘密って約束してたのに、僕……」
「ばーか、怒ってるワケじゃねぇよ。アイツになら大丈夫だろ。―――それに、俺もちょっと嬉しかったしな」
「本当ですか……?」
「ウソなんてつかねぇよ」
土方が囁き、後ろからぎゅっと抱き締めれば、沖田の身体はびくんと跳ねる。
そんな様子を可愛いと思いながらも、土方はさらに沖田の耳に唇を寄せて甘いセリフを零す。
「――だけどな、総司。俺の方が百万倍くれぇ、お前を【愛してる】と思うぜ?」
「…うぅ〜…っ…」
耳元で囁かれる甘いテノール。
そんな耳の刺激に耐えきれなくなったのか、沖田は身体を半回転させて土方に縋りついた。
「おいおい、どうしたんだよ?俺ぁ、まだ何もしてねぇぞ…?」
「だって………っふぁっ」
言葉を紡ごうとした沖田の唇を、土方のそれがふさぐ。自分の全てを奪い取ってしまいそうな口づけに、沖田は必死で応えた。
「……ぷはっ…あっ………」
「総司、お前次の授業サボれ」
それは、鬼の教師と呼ばれているとは到底思えないセリフだったけれど。
互いの唾液で唇を濡らし、色気の滲む瞳で見つめながら土方はするりと沖田の腰を抱く。
沖田はそんな土方にふわりと笑った。嬉しそうに、少し恥ずかしそうに。
「セーンセ…お願いだから、優しくして、くださいね……?」
「―――あぁ…」
それだけ呟いた土方は、もう一度沖田を引き寄せる。
薄暗い階段の踊り場で、ふたつの影がそっと重なった。
――――あの後、教室に沖田の姿はなく、国語科準備室で土方にたっぷりと愛されていたとか。