薄桜鬼
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「――――っ…」
原田が息を呑んだ気配で、平助はハッと我に返った。
「あ……」
――なんてことを言ってしまったんだろう。こんなことを言ったって、原田を困らせるだけなのに。
「ご、めん……っ」
背を、向けようとした。――しかし。
「ぅわっ…」
痛いくらいに、抱きしめられた。他でもない、原田に。
回された手は悲しいほど強く、優しいほどキツく。まるでもう二度と話さないとでも言うように。
「な、に…――ぷわっ」
続けようとした唇は、原田のそれによって塞がれた。
――キス、されてる…?
そう理解したときは原田を突き飛ばしていた。
「――――平助」
「やめろよ…!同情からの愛なんて、欲しくない…ッ!」
原田の優しさか、平助を傷つけるから。
その優しさは、平助の胸を抉るから。
――そんな【同情】なら、いらない。
「なんでそんなことするんだよ…!?気持ち悪いだろ!?だったらそう言えばいいじゃんか!そんなことされたら、俺――」
同情なんかじゃなくて、本当に愛されているのかもしれないって、勘違いしそうになる――…
「――悪い、平助。本当にすまん…」
そう紡ごうとしたのに、まるでそれを防ぐかのように更に強く抱きしめられた。
「さ…の、さん……?」
「お前がそこまで考えてくれてたなんて、気づかなかった。本当、すまん」
「逆なんだよ――」そう言って、原田は平助の濡れた頬を拭って微笑んだ。
「“平助”って呼んじまったら――こらえ切れねぇと思ったんだ。せっかく今まで隠してきた想いが、溢れちまいそうで」
「え……?」
「好きだ、平助。誰よりお前が――お前だけが好きなんだ」
慈しむように頬を撫でながら言えば、平助はまた新たな涙を流す。
「それ――どういう意味の、【好き】…?」
まだ不安そうな表情の平助を、原田は優しく引き寄せた。
「こういう、【好き】だよ―――」
「え――?」
よく分からないような表情をしていた平助の顎を、クイッと上げた。
―――澄んだ緑色の瞳が、原田の蜜色の瞳と交わる――…