薄桜鬼

□8
1ページ/1ページ



その瞳に吸い込まれそうだ、なんて頭の片隅で思いつつ、原田はそっと平助の唇に己の唇を重ねる。


「んっ……」


微かに零れたその声は、原田の理性を崩すには十分で。


(やべぇ…止まんねぇ――…)


平助の唇は柔らかくて、そしてほのかに甘い。香る汗の香りさえ、原田には欲情を煽るスパイスにしかならない。


「!? あぅ…っ……んんっ…」


そっと、少しだけ開かれていた口腔に舌を差し込んでみた。いわゆる、ディープキス。

免疫のない平助は驚いたのだろう。身をよじって逃げようとするけれど、それより先に、原田の手が平助の後頭部を固定した。


「さの、さ……っ、んっ、ん…――」


さらに続けること、数分。酸欠のためか頬を赤く染めた平助に胸を叩かれ、原田はようやく唇を離す。


「―――――っはっ……はぁ…っ」

「――平助、好きだ。愛してる。俺だってずっと前から、恋愛対象としてお前が、好きだったんだ」


思いっきり甘い声で、囁くように伝えた。

荒い呼吸のまはま原田に半ば縋りついていた平助は、その言葉にのろのろと顔を上げる。


「ほんと、に……?」

「――あぁ…」

風が通り抜けて、桜の花弁を散らしていく。



―――あのときと、同じ…。



原田の腕の中で花弁を眺めながら、なぜか平助はそう思った。



――遠い、遠い、遥か昔。
自分たちは、桜の下で別れを告げた。
それは、互いの信じた道を進むが故の、ひとつの決断。
桜の舞い散る中で、ふたりは最後の逢瀬を交わす。
抱き合って、語り合って、笑い合って、そして――口づけを交わした。
また再び会えるようにと想いをのせた、祈りの口づけ。
何度この世に生を受けても、互いを愛すると決めた、誓いの口づけ。
風邪で舞い上がる花弁が、ふたりの長い髪の間をすり抜けていく。


絡まる赤色と茶色の、髪。
交差する蜜色と緑色の、瞳。

そのふたりの名を、自分たちは知っている。



――新選組十番組組長、原田左之助。
――新選組八番組組長、藤堂平助。



戦乱の世を駆け抜け、確かに存在していた、もう一人の【自分たち】―――。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ