薄桜鬼
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――頭の中で、閃光が走る。
そこにいたのは、【今の】平助と原田。
少し違うのはふたりとも、【過去の】平助と原田の想いを、記憶を受け継いでいること…。
「泣くな、平助…」
【過去の】平助が流した涙を拭うのは、紛れもなく【今の】原田の指先で。
その感触が優しくて、平助は【今の】涙を新たに流した。
「左之さん、覚えてる…?」
百何十年もの時を越えた、ふたりの想いを。
「――あぁ…全部、覚えてる」
その想いは今、再び巡り合い、確かに受け継がれている。
「でも、なんか信じられない…。左之さんのことを昔から知ってたなんて――」
夢現のまま呟く平助の頬を、原田の大きな手が包み込み上を向かせた。
あの頃と同じように、でもあの頃よりも短くなった髪が、絡み合う。
「――平助。俺は確かに、ずっと前からお前が好きだった。でも【今の】俺は、【今の】お前が好きなんだよ。俺が愛してんのは、生涯お前ひとりだ」
囁かれた台詞はキャラメルのように甘い。
そして今の平助の顔は、林檎のように赤いのだろう。
「―――うん…」
死んでしまいそうなほど嬉しいのに、「ありがとう」と笑って伝えたいのに。
平助の唇は、二文字のその言葉を紡ぐことが精一杯で。
「―――――っ!!」
だから、行動で示した。原田の大きな背中に腕を回して、あらん限りの力で抱きつく。
「大丈夫だ。もう絶対に離さないから」
同じように背中に腕を回され、あやすようにそっと撫でられた。
――優しい声色、温かい手のひら―――。
知らない内に溢れそうになる涙を、唇を噛んでこらえた。
――でも、それさえ原田にはお見通しで。
「平助、こらえるな。我慢するな。…俺の前では――弱さを見せても、いいから」
ぽんぽんと優しく背中を叩かれて、撫でられて。平助はこらえ切れない涙を零す。
「うぅ……ぁあ…わあぁ……んん…!!」
原田の腕が、声が。平助を包み込んで。
原田の腕の中で、原田の香りに包まれて、子供のように泣きじゃくった。
―――離さないで、お願い。
ようやく巡り会えた、愛しいひと。
このひとの隣を。
自分の、存在すべき場所を。
もう見失わないよ。
――心は、永久に貴方と共に。