薄桜鬼
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桜の花弁が舞う中で、平助と原田は空を見上げた。
昔も今も同じように、空は青く澄んでいて、桜の花弁は儚く散る。
「そういえば、左之さんはどうしてここに来たの?」
「あ、あー…それは、だなぁ…」
原田の腕の中で平助がそう問えば、原田は苦虫を噛み潰したような表情をした。
「――土方さんと総司が来たんだよ。んで『屋上で平助が待ってるから行け』って言われたから来たんだ」
「総司と土方先生が…?」
「あぁ、お前も覚えてんだろ?あの二人とも、俺らは昔会ってるって」
――新選組副長、土方歳三。
――新選組一番組組長、沖田総司。
自分たちの関係を知っていて、そしてあの二人もまた、同じような関係だった。
「この世界でも、また助けられたなぁ…」
何かお礼しなくちゃかな、などと呟いていたら原田がぎゅっと頭を引き寄せる。
頭の上から、少し不機嫌そうな声が聞こえた。
「平助。俺の腕の中で、他の男のことなんか話すなよ」
「へへっ、はーい」
甘さを含んだ声で頷けば、そっと顎を掴まれた。
(――――あ…)
欲情を孕んだ、原田の蜜色の瞳。この瞳を見た後に訪れる感触を、平助は知っている。
「…………」
瞳を閉じると同時に、唇に感じる優しい温もり。平助を誘惑する、甘い甘い罠。
濡れた音を立てて平助の口腔をまさぐるのは、原田の熱い舌。拙くも舌を絡めれば、口づけはもっと深いモノになり。
「ん、んっ……ん………、っはぁっ」
ちゅ、とリップ音を立てて唇が離れる。
銀色の糸が、互いを繋いだ。
「――続きは放課後、な?キスも、それ以上の【イイコト】も」
耳元で囁かれた言葉に頬を赤く染めながら、平助はこくん、と頷く。するりと腰を撫でられた感覚に、背筋に甘い快感が走り抜けた。
「…左之さん」
チャイムが鳴るまでの残り少ない時間を抱き合ったまま待ちながら、平助はゆっくりと言葉を紡ぐ。
――今、伝えなきゃいけないこと。自分の中にある、素直なキモチ。
「…好き。すっげぇ――好き」
「…あぁ。俺もだ」
想像通りの甘い返事に平助はふわりと微笑む。どちらからともなく唇を寄せ合って、距離を縮める。
桜の花弁が舞う屋上で、負担の影がそっと一つに溶け合った。
―――この後、この件のお礼を兼ねて二人が土方と沖田をお祭りへ誘うのは、また別のお話。
*Caramel days*
(それは、甘い日々の始まり。)