自転車

□突然の知らせ
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インハイが終わってすぐのことだ。
巻ちゃんから電話がかかってきた。
最初は珍しいなー。ぐらいにしか思ってもなかった。
しかし、その電話は俺にとっては最悪の知らせで、突然すぎる知らせでもあった。


"悪りぃ東堂。俺ちょっとイギリス行ってくるわ。"


そう軽く言ってくれた巻ちゃん。
しかし、その声は少しだけ涙ぐんでいた。
3年間ライバルとして、恋人として共に過ごしてきた俺に嘘は通用しない。

俺は走った。相棒と共に、巻ちゃんの元へ。

急にどうしてイギリスに?
なんで今まで黙ってた?
なんのために?
疑問ばかりが頭をよぎる。


そして自転車を走らせ、やっと千葉まで着き、巻ちゃんの家へ着いた頃には汗だくで息も上がり、脚も疲れ切っていた。


よく来ていた巻ちゃんの家。
しかし今日はいつもの嬉しい足取りではなかった。
チャイムを鳴らす手も気のせいか少しだけ震えている気もする。





ピンポーン






チャイムが虚しく鳴る。



チャイムが鳴ってから巻ちゃんが出てくるまですごく時間が長く感じた。




「東堂…。」



巻ちゃんは少し驚いていたようだった。
しかしいつものように、俺を家へ招き入れてくれた。


「何飲むっショ?」
「巻ちゃん。」

巻ちゃんの問い掛けを無視し、俺は本題へ入ろうとした。


「分かってるっショ。」

巻ちゃんは小さく息を吐いた。

「話、長くなるっショ。だから、な?」

俺は巻ちゃんの言葉を聞き入れ、ミルクティーを頼んだ。

「で、急にどうしたっショ。」
「どうしたじゃないぞ。分かっているのだろう?」

真剣に言うとへらへらしていた巻ちゃんも真剣な表情になった。

「分かってるっショ。電話の話っショ。」

巻ちゃんはまた悲しげな声で呟いた。

「もう、すぐにイギリスへ行くことになったっショ。東堂、今までありがとう。もうこっちには戻れないっショ。」

巻ちゃんは一息ついて悲しげな笑顔を俺に向けた。

いい予感がしない。
言うな。それ以上言うな。
しかしその言葉は、巻ちゃんの口からこぼれ落ちるようにつぶやかれた。



















「だから、別れるっショ。」







その言葉を放った途端、巻ちゃんの頬に涙が伝った。

「巻ちゃん、なんで泣いているのだ?」

俺の問いにも答えずに放心している巻ちゃん。

「巻ちゃん。俺は巻ちゃんがイギリスへ行ったとしても会いに行くし、毎日メールもするぞ。電話もだ!」
「東堂…?」
「だから、泣くでない。巻ちゃんは俺の永遠のライバルであり、俺の恋人なのだからな!」

わははは、と笑っていると巻ちゃんが抱きついて来た。

「まじキモいっショ。ストーカーっショ。」

そういいながらも巻ちゃんの顔には笑顔が戻っていた。

「やはり俺は、巻ちゃんのその笑顔が大好きだぞ!」
「意味わかんないっショ!」

気付くと2人で笑っていて、巻ちゃんの涙は晴れていた。








それからすぐに巻ちゃんはイギリスへ旅立ってしまった。
なぜ行かなければならなかったのかとか、細かいことは後々メールで知った。


巻ちゃんがイギリスへ行っても、俺は毎日のようにメールするし、週3ぐらいは電話をする。


でも、2ヶ月に一度くらい、たまに巻ちゃんから電話が来る時があるんだ。

























"東堂。会いに来るっショ?"



















"突然の知らせ"

(そうか!巻ちゃんは寂しくなったか!わはははは)
(じゃあ来なくていいっショ。)
(巻ちゃんは素直ではないな!もう少し素直になれ!)
(やだっショ。)

END

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