お題配布サイトより。
□硝子の破片が冷静さを呼び覚ます
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昨日の温度が忘れられない。
真冬の夜、あの冷たい手が忘れられない。
私が温めてあげたいと思った。
暖かくなっても、まだ触れていたいと思った。
温めたいと思っただけではなかった。
独占欲なんだろうか。
私だけがこの手を握っていたかった。
知らない間に伸ばしていた手は、あの人の頬に触れていた。
手とは違って熱く熱っぽかった。
それがなぜかとても愛おしくなるのだった。
携帯の振動。
ゆっくりと前を見る。
私はまた戻らなければならない。
息苦しいところに行かなければならない。
どこかに逃げたい。
どこかじゃない、あの場に、昨日のあの時に戻りたい。
携帯の振動は続く。
上手く吸えない空気を無理矢理肺に送り込む。
その行為を拒むように痛む体。
これが常だ。
日常に戻る自分。
あぁ、大丈夫だ。
これが、いつもの私なのだから。