『オオカミとリス』

□001.煙草
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週明けの会議までに作成しなければならない資料作りのため、会社に残る。

翔さんは「一緒にやろうか?」と言ってくれたが、今日は所謂花金ってやつだし、翔さんが終業前から何度も時計を気にしていたのも知っていたので断った。

「ゴメンな」と謝りながらも急ぎ退社していくそれは、きっとデートの約束でもしているんだろう。


俺だってもう入社して5年。


翔さんと一緒にだけど、新しい企画も少しずつ任されるようになった。

今度の会議は、俺の案も含まれている。

資料はある程度は完成していたが、もっとわかりやすくできるのではないかと思案をめぐらせていた。



「ふー」

ある程度カタチが見えてきて、パソコンから時計へ目を移すと、時刻は10時を指していた。

さすがにこの時間ともなると、フロアには誰もいない。

余計な電気は消灯され、俺のデスク周りだけがスポットライトのように照らされていた。



煙草でも吸おうかと席を立ち、喫煙所のある階下へと向かう。

その途中、俺と同じようにスポットライトを浴びるように一人パソコンに向かう姿を見かけた。

「あれは…」


大野さんだ。


部署が違うから一緒に仕事をしたことはないが、喫煙所で時々一緒になる。

先輩だけど、特に会話することがなくても苦にならない、柔らかな空気感が好きだった。


そして、それよりもっと好きなのが、大野さんの手。


煙草を挟むその指は、スラっと長く伸びていて。

指先、掌、そしてシャツの袖を捲り上げたそこから見える腕は、柔らかな表情とは似つかない男らしさで、同性から見ても…格好良いと思う。

そんな大野さんを、素敵だな、と、いつも見惚れていた。



そんな柔らかな印象の彼が、眉間にしわを寄せ、険しい表情でパソコンを睨む。

いつもとは全く違う空気を纏いながら仕事をする姿は、いつにも増して色気を放っていた。


「残業ですか?」

「おっ…と、二宮?」


突然の声かけに驚いた様子だったが、俺を確認していつものようにふわっと表情を変えた。


「あれ?お前も残ってんの?」

「はい。もう終わりますけどね」


煙草でも吸おうかと思って。と話すと、大野さんは携帯灰皿と煙草を取り出し、隣の席へと俺を促した。

「もう誰もいねえし」

ふはっと笑い、大野さんは煙草に火をつける。

俺も習って隣に座り、火をつけた。



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