『オオカミとリス』
□006.混乱
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仕事を終え家に着くと、ジャケットを脱ぎクローゼットに掛ける。
ポケットから例のライターを取り出し、ソファへ横になった。
照明に反射して、青い液体がキラキラと輝く。
青に映える黄色い魚が、まるで生きているかのようにユラユラと泳ぎだす。
大野さんはライターを持っていた。
ただ貸してくれればいいのに。
俺を至近距離で見つめて笑う。
からかってるの?
俺の動揺を楽しんでるの?
キスされた”あの日”から、俺の頭の中はごちゃごちゃにとっ散らかっていた。
なんであんな事になったのか…いったい…なぜ?
でも、あのいつもと違う、真剣な空気を纏った大野さんが、なぜか忘れられない自分もいて…
俺、どうしちゃったんだ?
どうして俺なんかにキスしたの?
男だよ?
『そんな顔してるお前が悪い』
どういう意味?
きっと冗談。悪ノリしただけ。
そう思えば何てことない事なのに、どこか冗談にできないでいる自分に余計混乱する。
「あーッ もう!」
ライターをローテーブルへ放り投げ、ソファに突っ伏した。
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