たんぺん
□小話
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場所:ハロウィン街
登場人物:ウィルとマリア
《君/貴方と出会って》
マリアは、街へ買い物をしに来ていた。
辺りを見回せば、今月最大の催物のハロウィンがポスターや置き物、更には仮装をした人達を使って街をジャックしている。
「もう、こんな時期なのね…。」
彼女は感慨深くそう呟く。
マリアは、ハロウィンが大好きだ。お菓子が貰えるのは勿論の事、クオリティの高いお化けのコスプレ衣装を見るのもするのも好きである。
そして何より1年前に大好きな彼に出会えた大切な日だからである。
まぁ、色々あって頻繁に会えるようになったがやはりこのハロウィンというのは特別な日に感じてしまうのだ。
今年はどうしようか、頬を緩ませながら考える彼女の足取りはとても軽かった。
所変わってここはハロウィン街。
イベントの準備が忙しなく進められているこの街はいつも以上に賑やかだ。
その街の住人である盲目の南瓜頭の彼も盲目なりに出来る事をしていた。
とはいえ、彼の『ハンドメイドクラフト』があるので障害という訳ではないのだが。
「うー…、疲れたぁ…。」
大きく伸びをしながらウィルは呟く。
今年は、とある目標の為に通常の倍はある仕事量を熟している。
「よし!頑張る!」
気持ちを切り替えた彼は、作業に戻った。
愛らしい笑顔を浮かべる愛しい彼女を思い浮かべながらの作業はいつも以上に素早かったりそうでもなかったりした。
さて、本日は誰もが楽しみにしているハロウィン当日である。
昼まで友人と楽しくハロウィンパーティーをしていたマリアは、急ぎ足で自宅に戻ってきた。
自室の前で、一度立ち止まり深呼吸をしてから服装と髪の毛の乱れが無いか確認する。
「…大丈夫ね。」
ばっちり身支度を整えたマリアは、ひと思いに自室の扉を開けた。
「えっ?」
「わぁ…!」
重なる筈のない声が重なる。
マリアの視線の先に同じポーズで扉を開けるウィルの姿があった。
「マリア!Happy Halloween!」
嬉しそうに手を振りながらそう言う南瓜にマリアは驚いて声が出ない。
なんで、どうして、が頭の中をぐるぐると巡るが会いたかったのも事実で。
何処にもやりどころの無いこの気持ちを取り敢えず彼に近付いて鳩尾に一発軽く拳を入れておく事にした。
そのまま手を引かれすぽりと彼の胸に収められた。
「えへへ…。今年は迎えに行くってお約束したから迎えに来たんだ!大変だったんだよ?」
彼女の気持ちを読み取って話す彼は、きっと犬の尻尾があるならちぎれんばかりに降っているのだろう。
「…そう、ありがとう。」
それが嬉しくて顔を赤くしながら彼の服をくしゃりと握って素っ気なく言ったら、
「いえいえ!約束はきちんと守る方だからね!」
少しだけ抱きしめる力が強くなって返ってきた。
それから暫くした後、
「じゃあ、行こうか!」
「ええ、行きましょう!」
嬉しそうに、楽しそうに手を繋いで扉の向こうのハロウィン街に向かった。
2年目のハロウィン!