幸ブン
□赤い糸
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「ねぇ...幸村くん...?」
突然の事だった。隣にいた君が跳ねられたのは。庇ってくれたのは。
飲酒運転だった。交通事故だって脳が反応するのに時間がかかった。
人が慌てて走ってくるのがスローモーションに見えた。悲鳴がどこかで聞こえた。
「幸村くん...?...幸村くん!」
体を揺らしても揺らしても目を覚まさない。
流れ出ている血は真っ赤なのに、顔は青くなっている。
反比例するように。
遠い所で救急車の音が聞こえた。
俺は知っていた。助からない事を。でも、夢に逃げたかった。今までが夢に感じた。
何回も何回も傷つけた手首がのぞいた。
カバンからカッターをた取り出す。俺の血で染みた、大切なもの。
幸村くんの手をとった。もう脈も感じない。冷たい手。
静かに左手の薬指に薄い線を描いた。
赤黒い血が線が流れ出る。
救急車がついた。
幸村くんはその人達に連れて行かれた。もう無理なのに。助からないのに。
遠ざかっていく救急車。
俺は笑った。
「幸村くんは...幸せだった?」
誰にも聞こえない声で言った。誰も応える人はいない。
悲しみが込み上げてかきて、頬を濡らした。
(冷たい君)