忍岳

□優しさ
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「っ、」

一瞬の出来事だった。
見てしまった。侑士と...学年で可愛いとされるマドンナが、キスしてるの。
その子が侑士に告白してるのは前々から気づいてた。


"大切な奴、おるから"

そう言ってた侑士に優越感を感じてた。油断してた。

まさか、こんなことが起こるなんて。



「岳人っ...!」

俺に気付いた侑士は俺の所にきた。俺はなぜか逃げた。
わかんない、自分でも。からだが拒否している。

体格差、というものを忘れていた。追いつかれるのは分かっていた。


「...岳人、なんで、逃げるん?」
「ーーったー、ら。」

侑士は何と言ったか聞こえていないみたいだった。

「怖かったから。」

侑士は黙って俺を抱き締めた。

「堪忍な、岳人。自分は悪くあらへんのに。」

侑士は優しく笑った。


「なぁ、ゆーし。中途半端な優しさって時に人を傷つけるんだぜ...。」
「......。」

侑士は何も言わなかった。分かっていたんだと思う。



「俺、お前の優しさなんて...だいっきらい。」

俺は侑士に言った。でも、自分にも言ったんだと思う。

「岳っ!」


俺は走った。侑士が俺を呼び終える前に。
怖かった。嫌いになられることが。俺は戻ることさえ許されない。
男に生まれたことを憎んでも、終わらない憎しみ。



屋上に行った。空は雲一つない、青空。"ざまぁみろ"そう言ってるように思えた。
俺の心は真っ黒だった。雨が降って洗い流して欲しかった。

聞きなれた足音が聞こえた。


俺がフェンスに足をかけたら、太陽が笑った。
だから、俺も笑いかえした。

お荷物になるくらいなら、消えよう。幸せを願おう。

俺は初めて空を飛んだ。...鳥も、こんな気持ちか...。心なしか、思った。










(同情なんて、優しさと同じ、つくりものでしょ?)

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