Lion

□2.能力の差
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 もちろん個人差はあるけれど、人獣族は人間に比べると、運動神経に長けている。
 ライオンだとパワーや足の速さ。鳥だと空を飛ぶためのバランス感覚が発達している。
 覇気を出せば出すほど顕著に表れるが、それは獣化が進み動物に近づいているという印なので、本人はそのコントロールに気を付けなければならない。
 興奮状態になり無意識に獣化してしまったり、覇気が強すぎると人間が失神してしまう可能性もある。
 もしそうなればもう『やっちゃった』じゃすまされない。
 死には至らないので失神させるのはまだしも、その現場を誰かに見られたら。
 学校なんて、どこで誰が見ているかも分からない。
 現に覇気がだんだん強くなる様を、ここで私が見ているのだから。

 サッカーを楽しむ彼を途中までは『やりすぎだバカ』くらいの気持ちで見ていたが、徐々に不安になってきた。
 あの人は自分の力を認識できているのだろうか。
 力のコントロールは得意なのだろうか。
 もしかして、無意識に獣化しちゃわないか・・・?
 そう考えているうちにも、彼の覇気は少しずつ増していく。
 無邪気にグラウンドを走り回っている彼には、自分の力を認識しているようには見えなかった。

 ギリギリだった。
 考えて、迷って、否定して。
 イライラする。なんで私が・・・。

 悩んだ末、私は『実行』した。
 彼一点に焦点を当てて、私の覇気をとばしたのだ。
 圧力をかけて彼の力を抑え込むように覇気を送る。
 瞬間、彼はビリッと震えて覇気はみるみるうちに減っていく。


 明らかな力の差を感じると、弱者は戦意を失う。
 戦うより逃げた方がいい。賢明な判断だ。
 ライオンと小鳥。対抗するよりも、気を研ぎ澄ましてこっちの気配をうかがうのが当たり前だ。

 私が覇気を送った直後、それに気付いた彼は今まで夢中だったサッカーを放り出して辺りをキョロキョロと見渡した。
 けれど私の姿は見つけられない。見つけられるわけがない。
 私は一瞬だけ覇気をとばした後、彼に場所を探られないため、一瞬で自分の覇気をゼロに戻した。
 だだ漏れだった彼の覇気も微量なものに戻っていた。

 どうやら最悪の事態は防げたようだ。

 校内に人獣族がいる事を、彼に知られた事と引き換えに。
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