木花*其の一*

□17.初めて呼ぶ、君の名
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その瞬間ーー2人の間に、風が差し込んだ。

風に包まれ、乱れ舞う髪。

風の音だけが鳴る、その空間で
2人は真剣な目で見つめ合った。

『南野君のため…正直、それもなくはないけど、それだけじゃない。上手く言葉にならないけど、私は受け入れなきゃいけない。そう……私の心が言ってるの。覚悟は、できてます』

簡単に、言語化が出来るレベルの話ではない。

心で感じたそのままの想いを
今は、信じて進むしかない。

それが、私が出した生きる道。
それが、私の覚悟ある決意。




「……楽じゃないですよ。妖怪と人間を兼業するのは」

殺伐としていたはずの、表情が和らいだ。
仕方ない、そう言っているような
気の抜けた笑みを、南野が見せた。

『ふふ、兼業って…色々教えくださいね、妖怪の先輩』

冗談を飛ばしながら、2人は微笑んだ。

その直後、南野はスッと右手を、奈由に向けて差し出した。

「奈由、改めて、これからよろしくお願いします」

『こちらこそ…………秀一君』







新しい世界が、そこに広がった。

差し出された右手を、両手で包むように握り返し

勇気を振り絞って呼んだその名前を
秀一君は、笑って受け止めてくれた。


新しい世界が、扉を開けた。

想像もつかない未来に
ほんの少しの不安と好奇心を抱いて。













「うむうむ。これぞ、青春ってやつじゃな。羨ましい限りだ」

『………へ!?!?』

2人の空間を遮る、見知らぬ声。

その声の主は、気配もなく
2人の目の前に立っていた。

『え!?だ…誰!?子供!?』

突然現れたのは、小さな子供。

「よお」と言って、手を上げるその仕草は、年配のお爺ちゃんのようで、あまり子供らしくない。

子供らしいといえば、おしゃぶりをしているところだけど…

このくらいの歳の子でも、おしゃぶりはしないよね。

いや、前に大人なのに、おしゃぶりしてる人を見かけたことがあった…け。


「コエンマ、突然どうしたんです?」

秀一は、突然現れた子供に対し
動揺することもなく声を掛けた。


いや、それより


それよりも、今………







秀一君、コエンマって言った?


〜続く〜


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