木花*其の一*

□29.それぞれの想い
1ページ/8ページ


ーー暗黒武術会、前日。

俺達は、大会の開催地である首縊島へと向かうべく、船を待っている。

出航前の僅かな、このひと時。

俺は、港から少し離れた森の茂みに佇み、桑原君達から少し離れた場所で、1人過ごしていた。

「………よし」

瞼を、ゆっくりと開く。

目の前に広がるのは、漆黒の森。

静けさと不気味さを同時に感じながらも、不思議と心は穏やかなものだ。

「……」

ふいに、自分の手のひらを見つめる。

特に、意味があるわけではない。

ただ何となく…内から湧き出る様々な想いを束ねるように、この手を力強く握り締めてみた。

「おーーーいっ!!蔵馬ぁ!!何やってんだ?そろそろ出航だぞ!」

桑原君の声だ。
どうやら、船が港に到着したらしい。

「…ああ、今行く」

俺はゆっくりと歩みだし、港で待つチームメイト達と合流した。

「お待たせ」

「遅いぞ、蔵馬。さっさとしろ」

「森ん中で何してやがったんだ?はぐれちまったら大変だろ?もしかして、具合でも悪かったんか?」

出航を前にして、チームメイト達の様子は様々だ。

桑原君は、いつも以上に気合いを漲らせているし

飛影は…表面上はいつも通りだが、心の奥で1番闘争心を燃やしていそうだ。

幽助に至っては、よほどキツイ修行を積んだのか、深い眠りについている。

そして、もう1人のチームメイト。

顔が覆面で覆われて、まだ素性が分からないが、毅然とした雰囲気を醸している。

「少し心を落ち着かせていただけだ。問題ないです」

「ふーん?なら、良いんだけどよ」








ここを発つ前に
もう一度、会いたかったな。

ーーーー奈由に。

戸愚呂から武術会出場の話を聞かされた2ヶ月前の、あの日から

奈由とは一度も会えていない。

俺は、すぐさま大会に向けての特訓に取り掛かり、同時並行で桑原君の特訓にも付き合わされていた。

身も心も余裕を無くしていたのが正直なところ。

奈由のことはいつも想っていたし、会いたい想いもあったが…

これから始まる命懸けの戦いに備えるには…あまりにも時間がなかった。

だが

俺はある日の出来事をきっかけに…そんな自分の行動を深く反省する事になる。

それは、久しぶりに登校した際、クラスメイトから聞いた一言がきっかけだった。

「群青さんが南野のことを探しに、よくA組まで来てるぜ」

…だよな。

きっと、心配掛けているに違いない。

俺は慌てて、奈由のクラスへ向かった。

しかし

「奈由?奈由は今日お休みだよ」

「あ…そうか…」

見事な…すれ違いだ。

一目で良い。武術会の前に…少しだけでも、彼女に会いたい。

それ以降俺は、多忙を極める中でも時間を見つけては、奈由のクラスへ顔を出した。

だが、それでも彼女に会うことは叶わなかった。

「あの…奈由は…」

「今日も来たの南野君?残念だけど、今日も奈由ちゃんはお休み。どうしたのかなぁ…こんなに休む子じゃないのに」

どうしたものか。

奈由は、ここのところ早退したり、はたまた休みを繰り返しているらしい。
今までにない…奈由の行動に、不穏な想いが募る。

まさかとは思うが

暗黒武術会と
何か関係しているのか…?
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ