番外編
□赤色少年の心情
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第7Q 赤司視点
ミョウジナマエ先輩。
虹村主将が連れてきた、男にしては少々華奢な先輩だった。
プラチナ色の髪は体育館の光に反射して輝き、薄いグレーの瞳はどこか優しげな雰囲気を醸し出していて。
はじめはただの興味だった。
青峰に懐かれ、虹村主将とも仲が良く、桃井に抱きつかれる先輩。
華奢なのにも関わらずたくさんのドリンクが入った籠を軽々持ち上げるギャップ。
素直に、面白いと思ったのだ。
「...青峰、桃井。ミョウジ先輩が困っているだろう」
「「!!」」
2人に声をかければ、そっと頭だけをこちらに向けた先輩。
俺の姿を認識すると緩く瞳を細めた。
−−−−それにしても、本当に整った容姿をしている。
遠目からでもわかったが、近くで見ると更に。
儚く、少し風が吹いただけでかき消されてしまいそうな少年だ。
......先輩相手に少年という表現はどうかと思うが。
「離してやれ2人とも」
「...はーい」
「ッチ...」
渋々、本当に渋々先輩から離れた2人。
桃井はぶすっと頬を膨らませ、青峰は拗ねたようにそっぽを向く。
先輩が頭を撫でるとそんな不機嫌丸出しの表情は一瞬で変わり、満面の笑みへと変化した。
やっぱり、面白い人だ。
無意識のうちにじっと見つめていたのか、ちらりとこちらを見た先輩と目がばっちり合った。
僅かだが目を見開き、凄いスピードで逸らされたのは流石の俺でも傷つく。
というか傷ついた。
「...すみませんミョウジ先輩、ご迷惑を」
「気にしてないから大丈夫。お前もしっかり休憩とれよ」
ふわり、頭に暖かい感触。
青峰達と同じように撫でられていると気付いたのは、暖かさを感じた少し後だった。
−−−−撫でられたのなんて、いつ振りだろうか。
物心着いた時には赤司家の名を汚さないために、努力していた。
テストでは満点を取り、通知表は全て最高評価、他にも礼儀作法、帝王学も学んだ。
血が滲むほどの努力をしてきたのに、父さんにとってはそれが "あたりまえ"。
久しぶりに感じた人の温もりに、何故だか頬が緩んだ。
ふいに温もりが消え、気付けば先輩の右手をがっちり掴んでいて。
どうやら俺は自分が思っていた以上に人の温もりに飢えているらしい。
「どうした?」
「...俺は赤司征十郎。お前、じゃないです」
「あぁ、悪いな赤司」
それじゃ、と言って俺の頭から手を退けようとする先輩だが、この温もりを離したくない。
ぎゅ、と掴む手に力を入れた。
「赤司、離せ」
「...貴方は、」
「...?」
「不思議、...ですね」
何故、こんなにも安心するんだろう。
父親からは "愛情" というモノを注がれた覚えがないため、か。
−−−−それとも、この人が持つ魅力からなるものなのか。
「......赤司も、そんな表情で笑えるんだ」
「え、」
ふわり、微笑んだ先輩。
そんな表情、とはどんな表情だろう。
先輩はやんわりと手を退けると、ひらひらと手を振って主将のところへと向かった。
........." 興味 "だけじゃ済まなくなりそうだ。
胸の中に残ったこの気持ちの正体を考えながら、俺はその場を後にした。
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