桃井くん
□桜井さんと桃井くん。
1ページ/1ページ
「大ちゃん、練習来て!」
「あー? ヤダよ、怠い」
「怠い、じゃなくて!! 今日は秀徳との練習試合なんだよ!?」
「秀徳だあ? 緑間のいるところか...」
「そ、ミドリンがいるんだから苦戦するだろ!? だから大ちゃんっ」
「ッチ... しゃーねぇ、飛び降りるから受け止めろよ」
「は? ...っうわ!?」
−−−−−−−−...
どうも桃井さつきちゃんに成り代わった男桃井名前です。
今日はあの秀徳との練習試合だ。
なのだよエース様とHSKがいるところだぜ?
ちなみに前世で一番好きだった学校は桐皇、一番好きだったキャラは宮地さん。
だからテンションが若干上がっている。
そんなハイテンションの中監督に呼び出され、いつものように大ちゃんを呼んで来るように言われた。
くっそ宮地さん見たかった。
...で、冒頭に至るわけだ。
「大ちゃん、っそれ危ないから...!」
「いーじゃん名前受け止めてくれるだろ。
よっしゃこのまま体育館な」
「ふざけんなよ」
このまま、というのはお姫様抱っこのことだ。
又の名をプリンセスホールド。
普通の女子高生ならいくら幼馴染でもお姫様抱っこは嫌がると思うが、大ちゃんは嫌がるどころか喜んでいる。
まあ、ね? 俺男だけど大ちゃんと6センチしか変わらないから。
しかも大ちゃん胸あるし筋肉もついてるから平均より少し重い。
このままで体育館まで行けるか...?
俺途中で力尽きないかな?
「ほら、早く」
「...はぁー、しょうがない。若干走るから首に腕まわして」
大ちゃんがするりと俺の首に細い腕をまわしたのを確認した後、抱き直して体育館に向かった。
若干小走りで。
桜井side
青峰サンが来ない。
何時ものように桃井サンが屋上まで青峰サンを呼びに行った。
...けど。
「っ、」
−−−−面白くない。
私は桃井サンが好きだ。
誰にも言わないけど。
桃井サンが一番優先して、今までこの中の誰よりも桃井サンと一緒にいて、そして桃井サンと一番仲がいい。
それに、バスケだって。
...正直、羨ましかったんだ。
青峰サンが。
「なんや桜井、シケた面して」
「ッ! 今吉先輩...」
にこにこと胡散臭い笑みを浮かべる先輩。
この先輩も、桃井サンと仲がいい。
羨ましい、です。
「スマンのぉ、桃井くんと仲が良くて」
「...!?」
「ははは」
「す、スミマセン!!」
やっぱり怖い。
「怖いて...酷いなあ桜井」
「...!? スミマセンッ、スミマセン!! 私なんかが桃井サンのこと思っちゃって...!」
「んや、人の恋路を邪魔する気は無いで。ただ自分は好きに恋愛させてもらうけどな」
「あ、...っスミマセン!」
「何がや」
さっきの話を聞く限り、今吉先輩も桃井サンが好き、なのか?
うわああ、それは...!
「スミマセンッ!!」
「だから何がや」
大体桜井はな、という今吉先輩の言葉に被せられたバンッ、という音。
その音は体育館の扉が勢いよく開かれた音とよく似ていて、というより正にその音で。
あまりの音に体育館にいた全員が振り返った。
「うるっ、...さいよ大ちゃん!! 女の子なんだからもっと静かに!!」
「あ? 開けろっつったの名前だろーが」
「静かに開けるだろ普通! っていうか試合始まってたらどうしてたんだよ!」
「まだ始まってねーのかよ。うわー、急いで損した」
「大ちゃんのこと運んだの俺なんだけど...!?」
「おー、さんきゅな」
「じゃあ離そうか、ん?」
「試合始まるまでこれで」
「離 し て 大 ち ゃ ん」
まるでギャグのような会話を繰り広げる2人。
ぽかんと口を開ける者、呆れたように溜息をつく者、興味津々に見る者... 反応は様々だ。
ちなみに桐皇のメンバーはみんな「またか...」というように溜息をつき、生暖かい目線を送っていた。
あと緑間サンも。
「...青峰さん、試合を始めるので桃井くんから降りなさい。
桃井くんはマネージャーの仕事に戻ってください」
「あ、はいっ!」
「名前が離してくんねーんすよ」
「大ちゃんが首から腕離してくれれば降ろすんだけどなあ」
「腕まわせって言ったの名前だろ」
「っあーもう...!」
よく見れば、いやよく見なくても、今青峰サンは桃井サンにお姫様抱っこされている。
プリンセスホールドとも言う、女の子の憧れだ。
ふと周りを見れば今吉先輩は少し眉を顰め、若松サンはぷるぷると震えていた。
怒りによるものだろうけど。
私としては少し悲しくて、そして胸の奥がもやもやする。
なんだかドス黒い感情が胸の中で渦巻く。
3Pで負けた時なんかよりもっとどろどろした感情。
「...ッ桃井サン!」
気付けば桃井サンの名前を呼んでいた。
びっくりしたように私を見る桃井サン、それにつられて青峰サンも私を見た。
「あ、あの...ッ」
「? どうしたの桜井さん」
「っ...」
「...あー、名前降ろせ」
「はあ? 何だよ急に」
「いいから降ろせ」
そう言った青峰サンを思わず見上げた。
気恥ずかしそうに頬をかいて、私の頭にぽんと手を置いた後皆のところ、...というか緑間サンのところに走って行った。
「どうしたんだ大ちゃんの奴...」
「あ、の、ッ桃井サン!」
「ん? ちゃんと聞いてるから安心して」
「あ、はいスミマセン! ...で、あの、」
言え。
言うんだ、私。
「この試合に、勝てたら...っ、私のこと、名前で呼んでください!!
ッスミマセン!」
「え」
「...ッ」
引かれてないかな。
気持ち悪いって思われてないかな。
怖くて肩や手、足が震えた。
ぷるぷると震えていると、ふいに頭に暖かい感触。
「わかった。ただ、良ちゃんでもいいかな? 名前で呼び捨てって慣れてなくてさ」
「...え、」
頭を撫でられているんだと気付いたのは、その返事を貰った少し後だった。
((101-96で勝者桐皇!!))
((((ありがとうございました!!!))))
(うわわわわ、勝った...!!)
((さく、...良ちゃん))
((!!))
((勝てたね! 俺も名前呼びなんだし、良ちゃんも名前で呼んでよ))
((! ...っはい、名前くん!!))
.