” 月が綺麗ですね ”
□赤司くんに言われました
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風が冷たくなってきた秋。
私は赤司くんの隣に並んで歩いていた。
帰る時に下駄箱でばったり赤司くんと遭遇し、「もう暗いんだし送って行くよ」と言われたから送って貰っている最中だ。
「...(それにしても、)」
随分と綺麗な顔をしている。
燃えるような赤い髪にルビーのように輝く双眸。
白い肌にすっと通った鼻筋。
まるで童話の世界から抜け出してきた王子様みたいだ。
「...苗字」
「はい?」
「月が綺麗だな」
赤司くんに言われ顔を上げると、綺麗な満月が朧げに輝いていた。
儚げに、優しい光を放つ月。
「太陽があるからこその、この輝きですからね」
私がそう返せば、ため息が聞こえた。
振り返ると、笑みを浮かべた赤司くん。
わずかだが切なげに見え、いつも威圧感たっぷりに微笑んでいる赤司くんからは想像できない姿だった。
「...わからない、か」
「? ...なにが、ですか?」
「夏目漱石は、I love youを月が綺麗ですね、と訳したらしい」
「へえ... それはまたロマンチックな」
「...俺はついさっき、苗字に月が綺麗だと言ったんだが」
...。
あ れ は 告 白 だ っ た と い う こ と か ! ?
月が綺麗ですねをI love youと訳したのは私も知っていた。が、敢えて無視をしていた。
だって間違ってたら恥ずかしい。
「え、じゃあ、今のは、つまり、...」
「...」
「告白、ということですか...?」
「...ッ、」
赤くなった顔を隠すように腕で口元を隠し、ゆっくりと静かに頷いた赤司くん。
その瞬間、かあっと顔に熱が集まった。
「...返事、は?」
「あ、...こんな私でよければ、よろしくお願いします」
曖昧に微笑んでみせれば、いきなりぎゅっと抱きつかれた。
驚いて硬直していると耳元でまた、
「月が綺麗だな、名前」
と囁かれたので(名前呼びだったことに少し照れた)、私も。
「はい。...月が綺麗ですね、征十郎くん」
ゆっくりと、私達の影が重なった。
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