鬼白小説 -短編-
□キミの気持ち
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僕とアイツの間にはさまれた桃タローくんが動揺して口をはさむ。
「…?あの…親戚か何か…?」
ーキミの気持ちー
その問いにすかさず、鬼灯が即答する。
「違います。ただの知人ですよ。お互い東洋医学の研究をしてまして」
「そう。まぁ色々と付き合いがね」
「でも極力会いませんね」
この野郎、いま僕の言葉全否定しやがった。
「まぁ、一言で言うと、コイツが大嫌いなんです」
「僕もお前なんか大っ嫌いだよ」
しまった。
またやってしまった。
どうして僕がコイツに悪態をついたことをこんなに悔やんでいるのか。
理由は単純だ。
鬼灯のことが好きだから。
好きな人に嫌われたくないのは誰だって同じだ。
でも、鬼灯にはなぜか、ホイホイと悪態をついてしまう。
なんて脳をしてるんだ、僕は。
「白澤さん。頼んでおいた漢方ください」
「ああ、それならもう出来てるから、渡すよ」
「珍しいですね。貴方が既に漢方を作り終わっているなんて。どうせまた女遊びに夢中で忘れているのではと思っていましたよ」
「うるさい!僕だって本当に好きな人が居…コホン、ずっと女の子に付き合ってあげられる程暇じゃないの」
危ない危ない。
好きな人の前で何を暴露しようとしているんだよ。
「女の子だけじゃ物足りない…はっ、まさか貴方、男にも色目を使っているんですか!?」
「はぁ!?」
ここまで言われたらさすがにカチンときた。
好きでもない男となんで僕がイチャイチャしなくちゃいけないんだよ。
というより、なんで好きな人にこんなこと言われなきゃいけないんだよ…
「そんなに僕のこと嫌いなのかよ…」
「ええ、死ぬ程」
相変わらず、アイツの顔は仏頂面のまま。
いや、少し眉間にしわが寄ってるような…。
もう少し、
ほんの少しくらい…
「もうちょっとくらい…優しくしてくれたっていいじゃん…」
「白澤様がデレっ…」
鬼灯の手が空気を読めない桃タローくんの口を抑え、言葉を遮る。
「一体どうしたんですか?涙目になって。貴方らしくないですよ」
「だから、もっと優しく…!」
「あー、はいはい。分かりましたよ。それより、注文していた金丹は?」
コイツ、絶対流してる。
「…、はい」
先程までの元気はどこへ行ったのか。
ダダ下がりのテンションで金丹を取り出す。
すると、ツカツカと鬼灯がこちらに歩み寄ってきた。
「な…何だよ……」
そして、金丹が転がっている白澤の手の上に自らの左手を置く。
「?え…何?」
次に、鬼灯の右手が白澤の顔に近づいていく。
殴られるっ…!
本能的に目を瞑る。
ぽふ…
よしよし…。
しかし、白澤の頭に痛みはなく、代わりに撫でられている。
「はぇ…?」
「何間抜けな声を出しているんですか。大体優しくしろと言ったのは貴方じゃないですか」
涼しい顔して何言ってんだよ!
いや、優しくしろとは言ったけど、まさかお前がやるなんて思わないだろ!?
ほら、桃タローくんなんて、びっくりしちゃって口あんぐりだよ!?
「それと、わたしが貴方のこと嫌いとか、勝手に思い込まないでください。」
「…どういう意味?」
「気付けよ。吉兆の印」
すると、白澤はぐいっと頭ごと鬼灯の方に寄せられ、触れるだけのキスをされる。
「好きですよ。バカ」
嘘、冗談だろ?
でも、ただの冗談だったら、
お前はそんな、僕が見惚れるくらい微笑まないよね。
もしかして、今までのキミの行動の中に、僕への気持ちがこもってた?
もしそうだとしたら、ごめん。
キミの気持ちに気付いてなかった。
ごめんね。
でも、僕の行動にも一応こもってたんだよ?
僕の気持ち、気付いてくれてたかな?
でも、もういいや。
キミの気持ち、素直に聞けたから。
「僕だって、好きだバカ!!」
**fin**