鬼白小説 -短編-
□鬼灯の着物
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「鬼灯くんの着物ってさ、なんでそんなデザインなの?」
「…」
「ちょっと、無視はやめてよ!」
ー鬼灯の着物ー
「ねー、ねー、鬼灯くんてばぁ」
今はお昼時。
いつものことながら、閻魔大王は鬼灯の目の前で昼食をとっているのだが…
困りましたね。
この服のデザインについては、あまり人には聞かれてほしくないのですが。
「貴方、わたしと何年間一緒に仕事をしているんですか?今更それを聞きます?」
「いやあ、なんか気になっちゃってさー。それにオシャレだよ、その着物」
「はぁ、この着物の赤い部分は、中華風となっているんです」
「なんで中国風?もしかして、白澤くんに選んでもらったの?」
「あんなセンスのかけらもないやつに誰が自分の服を選ばせるんですか?」
まあアイツが関わっているのは確かですが。
「ごちそうさまでした。閻魔大王、わたしは桃源郷へ行く予定があるので、午後はしばらく留守にさせていただきます。その間、メキメキ仕事をしていてください」
「メ、メキメキ!?なに、そのやる気が出るのか出ないのか分からない擬音語…ひぃっ!!」
突如、鬼灯の金棒が閻魔大王を襲う。
「くれぐれも、休まないように」
「わ、わかったよ。分かったからこの金棒どけて!」
すっと閻魔大王から金棒を下ろし、スタスタと食堂を出て行く鬼灯。
そんな鬼灯の後ろ姿を見送りながら、閻魔大王は1人、思うのだった。
結局、着物のデザインって何だったのかな?
食堂を出て、桃源郷へ向かう鬼灯。今日、犬のシロは仕事で、ついて来ようとはしなかった。
桃源郷に着き、極楽満月のドアを叩く。
「こんにちは。白澤さん。注文しておいた漢方を取りに来てやりましたよ、コノヤロー」
ガチャリとドアが開くと、今にも吐血しそうな顔の白澤が出てきた。
「なんでいきなり喧嘩ごしなんだよ。それに薬を作ってやってんのは僕なんだけど?」
「わたしは客ですよ?」
「うん。まぁ確かにね」
意外に素直におれたところを見ると、いつもより白澤は機嫌がいいようだ。
「じゃあ待ってて。今から煮込むから」
「は?今から作るんですか?」
「いま作ってたの!あと煮込むだけなんだよ。大人しく兎触って待ってよ」
白澤の言う通りにするのは気が進まないが、特に待っている間何もやることがないから兎をモフモフする。
すると、ふと疑問が湧く。
それも、2人共同時に。
「ところで、桃太郎さんは?」
「シロちゃんは?」
一瞬空気がピリッとしたが、白澤が「桃タローくんは天国におつかいだよ」と答えたことで穏やかな桃源郷の空気に戻る。
「シロさんはお仕事です」
「え!?シロくんて仕事できるの!?」
「ええ。まあ、あなたと同じ神獣ですしね」
「ふぅーん…」
再び兎の足音しか聞こえなくなる極楽満月。
普段は桃太郎がいるから、少しは話が盛り上がるものの、いないとここまでかというほど静かになるのだ。
すると、沈黙に耐えられなかったのだろう。白澤が口を開く。
「ところでさ、なんでお前の着物の裾とか襟元って、赤紫っぽい色してんの?」
1日に2回も同じ質問をされるとは思いませんでしたね。
いま人の服装について聞くことがブームなのでしょうか?
「この赤紫色の部分は中華風になっているんです」
「なんで中華風?お前日本人だろ。関係ないじゃん」
「あなた、天然なんですか?」
「え?違うけど」
「天然の人は決まってそう言いますよね」
中国中国…、と唱えながら必死に考える白澤さん。
流石にこれを分かっていただけなければ、貴方は本当にバカですよ?
というより、若干わたしも傷付きますね。
すると、しばらく唸っていた白澤が、はっと顔をあげた。
「もしかしてお前、僕以外に中国で好きなやつが…」
「何を本気でショックを受けた顔をしているのですか。このバカ」
「じゃあなんで…」
「中国には貴方がいるじゃないですか!!誰ですか?いつも「再見」などと言って手をフリフリしているやつは」
少し苛立ちながら言うと、白澤はぽかんと口を開け、自分のことを指差す。
「ぼ、僕?」
「そうですよ。貴方の天然さは分かっているつもりですが、ここまでくると傷付きます」
「ご、ごめん…。じゃあ、その中華風の部分って、僕が、ここにいるから…?」
「貴方以外に誰がいるんですか?」
そう言うと、貴方は頬を赤く染め、照れ臭そうに、
でも、とても嬉しそうに微笑む。
照れ隠しのつもりか、鍋の中をかき混ぜる手がやや早まる。
ただのわたしの気持ちでこのデザインにしたのですが…
こんなに喜んでくれるとは思いませんでした。
貴方が嬉しそうに微笑む顔が見れて、わたしも幸せですよ。
鬼灯が立ち上がり、白澤の側へ行く。
「白澤さん」
中華風の着物の裾が揺れ、鬼灯の腕が白澤を抱きしめた。
「ちょっ、今薬煮込んでるから…」
「白澤さん。好きですよ」
ピクリと体を震わせた白澤は、くるりと鬼灯の方を向き、ぎゅっと抱きしめ返す。
そして、鬼灯の肩に自分の顔を埋め、呟いた。
「っ、僕も…好きだよ」
もぅ、この着物のデザインは一生変えられませんね。
*fin*